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まだ青いだけの馬の骨


大手のアニメーション制作会社のデザイン室に勤めていた頃の話だ。

当時の俺は、吉祥寺駅から線路沿いを歩き、角のパルコから少し奥へ行ったところにあるビルに通っていた。

フリーでアニメーターもしながら、
デザインの仕事をぽつぽつ学んでいた頃の話だ。

■状況と抱えていた問題

当時俺は、アニメ制作会社をやめてフリーのアニメーターをしていた。
結婚してまだ子供も幼くて・・・なんて時だったので
新しい仕事の進め方やその方法を模索しながらもがいていた頃だ。
30歳ぐらいだったと思う。

先にアニメーターをやめてデザインの仕事をしていた先輩から連絡があり
「:宇宙人みたいな新人:たちとの間に入ってお前まとめてくれないか」
ってな感じで頼まれたのだ。

いろいろな仕事を工夫しながらまた研究しながら、独学で学んでいた俺は、
それだけにいろいろと悩みや不明点も多かった。

起用に(というか、いろんな仕事を断りづらくて)研究しながらやってきた結果、結構幅広く、こきように いろんな事ができるようには
なっていたが、
「これだ!」っていう自分にしかできない得意ジャンルがない中での
不安もあった。

三か月くらいがたち、仲間もでき、仕事にも慣れてきた頃、
ある個人デザイン事務所への出向の話が俺に舞い込んだ。

デザインやイラストレーターの仕事を始めたばかりだった俺に
先輩は「いろんな事を、学べるとおもうぜ」ってことで、
出向の話を俺に薦めた。

なんだか訳がよく事情も呑み込めないままに
(いろいろ仕事を見てみたいっていう好奇心もあったが)
池袋にある個人デザイン事務所に
一月間という期限つきで出向することになったのだ。

■どこの馬の骨 ----かっこいい大人たち-----

池袋駅から鬼子母神社のほうへ坂を少し下ったところにあるマンション。
出向先のデザイン事務所はその一室にあった。

個人のデザイナー&イラストレーター 二人の共同事務所で、
それぞれ個性的なおっさんイラストレーターの仕事場だった。
さらにそこに、美大生のバイトの女の子。(子リスみたいな感じの女の子)

 そりゃぁ俺も
「なんだか、ドラマとかで出てくるようなシチュエーションキャラだな」
 って当時も思ったさ。笑

この事務所に通い始めてから、二週間くらいたった頃だ。
ある日の夜 仕事終わりに、おじさんイラストレーター二人は
俺を飲みに誘ってくれた。

タイプの全く違うイラストレーターの二人は、
それぞれの仕事を持っていた。
けれど共同で仕事を受けることもあり
違う方を見ていても、いざって時はバッチリと
呼吸があう、相棒のような感じだった。

そう!まるでルパンと次元のようだった。(マジ実話です)

酔った勢いもあって思い切って今まで悩んでいた事を相談してみた。
「これから仕事続けていく上で、
:俺にだけできる得意技::必殺技:みたいなのを持った方が
 いいんじゃないかって・・・」
 と悩みを打ち明けてみた。

二人の先輩たちから帰ってきた答えは・・・
全くの逆の意外な答えだったのだ。発想の転換、みたいな。

「なんでもできるなら、それを武器にしちゃうってありなんじゃない」
 だった。

 さらにこんな風に続く。

「ここにいる間、もし知りたいことがあったら、
 テクニックだろうとやり方 だろうと、俺らが知っている知識は
 君につつみ隠さずみんな教えてあげるから。」

何処の馬の骨かもわからないこんな俺に。
「そんなことして・・・」と俺
大切なテクニックや自分たちで考えた良い方法などを簡単に教えてくれる
というのだ。

俺が何を言おうとしたのか察したのか・・・。

「だってさ、ここで今テクニックを教えたとしてだ、・・・・
 君がそれを覚える間に俺らは・・・もっとうまくなってっからさ!
 心配すんなって!」

 酔っていたのかもだけど。

そんな風に豪快に笑ったんだ。

俺の感想はこうだ。
「こんなカッコいい大人になりたい。」
「そして将来俺もそんなことを、後輩たちに言えるようになりてえ!」
 だった。

俺も将来、こんなカッコいい大人になりてーってマジで誓った。
いまでも出張先のこのデザイン事務所での出来事は
強烈に印象に残っている。

出向先で出会ったこの先輩イラストレータの二人は
駆け出しだった(しかも将来商売敵となるかもの)の
俺に(しかもどこの馬の骨かもわからない 他人の俺に)
真面目にアドバイスをくれた。

超かっこいい大人たちだったのだ。

■今、俺は?

みんな赤の他人の俺にとてもやさしく接してくれた。
当時の俺に対して、失敗してもめげずに研究し続けていたという
自負はある。

だけど、
出向を考えてくれた会社の先輩、出向先の二人のデザイナーの先輩たちには今でも感謝している。
彼らがいなかったら、今俺はここにいないとも思える。
この出来事は俺に取って大きなパラダイムシフトとなった。

無償で、ただ未来に投資するその道の先達たち。
●血のつながりなんて全くない赤の他人の俺に。
●ラグビーのように後ろへ後ろへとパスをつなげて。
●その道を究めようと努力する者を本当に力のある者たちは、
 決して見逃さない。

こんな究極のやさしさが他にあるだろうか。


近頃 もうそろそろいい年になった俺は自問するんだ。
そんなかっこいい大人に、自分はなれているのかなって。


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