日記(2022/06/12)

ジョン・フォード『静かなる男』再見。U-NEXTはちゃんとしたマスターを使っていて美麗な画面。なぜか吹替版しかないが、心置きなく画面に集中できるからむしろ良いと思える。モーリン・オハラがジョン・ウェインにキスされるときに吹く猛烈な風は問答無用で感動する圧倒的な何かであることは疑い得ないが、今回それにも増して心を動かされたのは、去り際のモーリン・オハラが今度は自分からキスするところで、もっと言えば「風に身をもっていかれる前に早く」といった調子の、その俊敏な所作にハッとさせられた。その後、やはり突風に吹き飛ばされるようにして何度も横転しそうになりながら走ってその場を後にする姿もまた美しい。自然現象や物理法則に抗うようにして自らの身体をのびのびと動かす人間の姿が素朴に健康的に写されていて爽やかな気持ちになる。結婚した2人の初めての共同作業が「貨幣を燃やす」なのもまた爽快感がある。いま読んでる小泉義之『デカルト哲学』に引き寄せて考えてしまうが、物質的なもの(結婚時の持参金の有無)を重視するモーリン・オハラと、そんなものはどうでもよくて2人で生活できれば幸福だとする精神面重視のジョン・ウェインという図式があり、デカルトは精神だけが重要としていて、そもそも持参金という制度そのものがおかしいし、それこそが2人の不和の原因なので、それを根こそぎにするため、モーリン・オハラとジョン・ウェインは共同して、持参金を火にくべたということなのかもしれない。金銭を貰うか貰わないかではなくて、金銭そのものを無かったことにする。しかし、それをきっかけとして勃発するジョン・ウェインとモーリン・オハラの義兄役ヴィクター・マクラグレンとの大殴り合いが、村人たちの賭けの対象になるという皮肉な展開を誘導してしまうのがまた面白い。喜劇。
本当は今日はイーストウッドの『ファイヤーフォックス』か『許されざる者』、それかトム・クルーズの何かを見ようかなとも思っていたが、結局ジョン・フォードになった。見なかった映画もここに記す。

(今日は終わり)


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