たむらまさあき

映画を作ります。ときどき短歌も作ります。 監督作『そんなこと考えるの馬鹿』(第41回…

たむらまさあき

映画を作ります。ときどき短歌も作ります。 監督作『そんなこと考えるの馬鹿』(第41回ぴあフィルムフェスティバル入選、第11回下北沢映画祭入選) U-NEXT、DOKUSO映画館、シネマディスカバリーズ(短編『冬子、夏の思い出』独占配信)にて配信中。

最近の記事

創作:関口(1)

大勢が「もう行くぞ」と言い立てているにもかかわらず、深い穴に入ったまま、関口は一時間ものあいだ一向に出てこない。 「関口!おいもう行くぞ!」 「犬がいたら欲しいんだ。小脇に挟んで温もりを得たいもんだから」 口を開いたかと思うと、先ほどからこれしか言わない。みんな困り果てている。それを分かってなおも言い続けるのだから悪質なのだ。 「そこにいる連中に聞いてみてくれないか」 連中といっても今この場所にいる人たちはみんな見ず知らずの通りすがりだ。多くの人が利用する、本来であればこのよ

    • 昔あった変な出来事

      じゃんけんで負けたら次の電信柱まで全員分のランドセルを持つゲームにもすでに退屈を感じ始めていた小学二年の僕は、ある日、僕たち三人のうちの誰かがただ何となく手にした細長い木の枝で落ちていた犬の糞を貫き、別の誰かが都合よく持っていたお肉屋さんの発泡スチロールのトレーにそっと置くのを見た。 それから、じゃんけんの敗者はランドセルの代わりに糞を載せたトレーを持つことになり、勝者はやはり木の枝で糞を貫通させることになった。 数週間が経って、犬糞回収ゲームの目新しさにも慣れてしまった僕た

      • 短歌研究新人賞に送ったやつ(30首)

        数年前に短歌研究新人賞に送ったやつを供養したいと思ってたので、ここでやります。『第三花粉』というタイトルで30首です。堅くて青臭い作風でちょっと恥ずかしい(文語に関しては使い方合ってるかも怪しい)のですが、短歌作り始めたころの一つの成果として、生暖かい目で読んでもらえると嬉しいです。また、短歌作れるようになるために。 花粉いまひたに走りて春いろの意思表示せよ 黄とはそのいろ 平均気温十二度を越す地点よりわれの動悸は意思に反する 杉華粉まとひてきみは「吾(あ)のアウラ」と

        • 日記(2022/10/05-10)

          水曜日。ゴダール『はなればなれに』再見。何となくマディソンダンスやルーブル美術館ダッシュの可愛らしさだけで記憶してたけど、今見ると実はまあまあ陰鬱な犯罪映画。ラストのあっけらんかんとしたハッピーエンドが大好き。「たかが映画」と言うかのような、もう映画終わったんでさっさと帰ってね、とでも言うかのような。 木曜日。渋谷シネマヴェーラでジョン・フォード特集『サブマリン爆撃隊』。ブルジョワ青年が海軍に入隊して船長の娘に恋する話だが、主役に魅力がなくて基本的にずっと退屈。ただラストシ

        創作:関口(1)

          日記(2022/10/03-04)

          月曜日。早く寝たせいで朝に余裕ができたから再見したかった『女と男のいる舗道』をU-NEXTで。何日か前からまた60年代ゴダールが気になっている。カメラのパンが機関銃の音に合わせてダダダとなるが、あれは編集とかじゃなくてラウル・クタールが手でやっているというのが『ゴダール、わがアンナ・カリーナ時代』のインタビューにあった。 画面については『全評論・全発言Ⅰ』にこういうのがあった。「1.33は気まぐれなサイズだと思われる。でもだからこそ、気まぐれなサイズだからこそ、1.33が好き

          日記(2022/10/03-04)

          日記(2022/09/30-10/02)

          金曜日。品川から新幹線で彼女と名古屋へ。国際芸術祭「あいち2022」。愛知芸術文化センターの展示を全部見ていたら日が暮れた。僕も彼女もすぐ座りたがるから途中からむしろ展示よりも休憩の方が楽しみになってくる始末なのだが、お昼、高島屋のあつた蓬莱軒でひつまぶしを食べ、碁石を入れておくような器に米と鰻がぎちぎちに詰まっていて多幸感に浸り、その代わり満腹になりすぎて苦しくなって、その後の電車で彼女がお腹をさすってるので見ると分かりやすく膨らんでたから手を当てると、唐突に「どうぞ座って

          日記(2022/09/30-10/02)

          日記(2022/09/26-28)

          月曜日。ゴダール『カラビニエ』初見。今年集中的に見ていた80年代以降のゴダールがそのサウンドの前衛性にも関わらずどこか「静謐」な印象を与えるのに対して(白を基調とした画面のせいもあるのかもしれない)、久しぶりに60年代ゴダールを見てみるとそこに「温かみ」のようなものがある。どこか親しみやすいというか、ゴダールが完全にどことは知れぬ「あちら側」に行ってしまう以前の、その天才にまだ親しみをもてるような時代の映画という感じがして。「あんた、ちょっと戦争でもして来なさいよ」みたいなテ

          日記(2022/09/26-28)

          日記(2022/09/22-25)

          木曜日。『失われた時を求めて』岩波文庫11巻読み終わる。第五篇「囚われの女」まで読んだことになり、その足で下高井戸シネマ、シャンタル・アケルマン特集『囚われの女』およそ5ヶ月ぶりに再見。初見時は、分からなさというか、何やら得体の知れない不穏さと切実さに支配された画面を見ていて、それが見たあとの興奮と充実度に繋がったのだと思う、原作読んだうえで見るとあまりにも「分かりすぎる」気がして、これはむしろ良くないかもしれないと思った。原作知った上で見て面白いのとそうでないのがある。

          日記(2022/09/22-25)

          日記(2022/09/20-21)

          火曜日。台風。思ったより影響なし。退勤後、モーリス・ピアラ『ソフィー・マルソーの刑事物語/ポリス』見る。ゲオの宅配レンタルでいっぱい借りちゃったせいで映画ばかり見てる。ジェラール・ドパルデューは顔も体型も全部おもしろい。この人はめちゃくちゃ映画出てるけど一体ヨーロッパでどういう立ち位置の俳優なのか。日本で言うところの誰って考えたときバナナマンの日村が思い浮かんだけど完全に見た目だけの話。ドパルデューは大好きかもしれない。ピクサーの3Dアニメっぽい質感もある。初めてモーリス・ピ

          日記(2022/09/20-21)

          日記(2022/09/17-19)

          土曜日。PFFで友人と後輩の作品が上映されるということで京橋国立映画アーカイブ。感想はフィルマークスに書いたので省略。両作とも良かったなあ。昼に10人くらいでゾロゾロと高島屋行って一番安そうな店入った。夜は久々に大人数で飲み会。 日曜日。何年かぶりに『勝手にしやがれ』再見。もしかしたら高校時代の初見以来かもしれない。ラストでベルモンドが地面に倒れるときの転び方が強烈。足がピーンと空に向けて立てられ、身体各部のなかで一番最後に着地する。ゴダール二度目の商業映画デビュー作ともい

          日記(2022/09/17-19)

          日記(2022/09/14-16)

          水曜日。退勤後、新宿シネカリテ。高橋洋『ザ・ミソジニー』見る。中原翔子が召喚した「地獄に堕ちた女たち」(ムッソリーニの愛人とかケネディ暗殺支持したベトナムの大統領夫人とか)に俄然興味が湧く。ムッソリーニの死体を見た河野知美がつぶやく「ムッソリーニ顔変形してる」の言い方がなぜか笑いを誘う。 木曜日。『失われた時を求めて』岩波文庫10巻読み終わる。第五篇『囚われの女』の前半。ここからはプルーストの死後刊行ということと関係しているのか、積み重なる膨大な文章のなかで、かつて死んだ人

          日記(2022/09/14-16)

          日記(2022/09/12-13)

          月曜日。西谷弘『容疑者Xの献身』見る。めちゃくちゃ面白い。初、西谷弘。こんなに品の良いスマートな演出をする人なのか……見てなかったの後悔。アパート2階と地上との高低差の感覚をこんなにも深く印象づけられる映画はない。地上にいる人はしかも橋の上にいるというのもまた良い、その下に不可視の別の高低差がある。橋の下にもまた人がいるのは言うまでもないわけで……。「挨拶の際に控えめに手を上げる」仕草を写した画面の控えめな雄弁さ。福山雅治と堤真一が雪山の斜面で交わす簡潔なやり取りが絶品。ただ

          日記(2022/09/12-13)

          日記(2022/09/11)

          日曜日。渋谷シネマヴェーラでジョン・フォード特集『香も高きケンタッキー』。『ジョン・フォード論』読んだからか名場面(名馬面)をもうすでに見た気分になっていたが、全然聞いてなかった交通事故の場面が案外すごい。こんなナチュラルに人を轢く瞬間ある?ってくらい。あと、他の画面に写ってる物と交通事故が同列に扱われているというか、交通事故が特段強調して撮られていない、画面の左らへんで、気を抜いていると見逃してしまうくらいの感じで撮られているように思えるのも不思議。轢かれた人のリアクション

          日記(2022/09/11)

          日記(2022/09/09-10)

          金曜日。『失われた時を求めて』岩波文庫9巻読み終わる。 土曜日。新宿ピカデリー。白石晃士『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』彼女と見に行き、延々と続く手ブレ映像で思いっきり画面酔い、開始1時間程度で退席。宇野祥平が散弾銃か何か持って登場する場面のときに1度だけカメラを床に置いてくれるときがあったがすぐにまた揺れる揺れる、そのままずっと床に置いたままにして、あとは勝手に画面外でワチャワチャやってて一向に構わないぞ……と思った。もうストーリーとかどうでもいい、ただただ

          日記(2022/09/09-10)

          日記(2022/09/08)

          木曜日。クロード・オータン=ララ『乙女の星』見る。祖母のかつての恋人を描いた肖像画に憧れる少女、ある日現れるその肖像の男の幽霊……と来ればその幽霊とのロマンスが描かれると誰もが予想するのだが、そのあと少女の前に現れる2人の青年が共に彼女に思いを寄せることになり、生者と死者合わせて三人の男たちが少女をめぐって恋愛を繰り広げることになる。この展開が予想外なだけに、かなり複雑な感じ方をした……何をどう見ればいいのか?起こっていることをそのまま受け容れて楽しめばいい!めちゃんこおもろ

          日記(2022/09/08)

          日記(2022/09/06-07)

          月曜日。ポール・シュレイダー『アメリカン・ジゴロ』見る。大して面白くないと言えばそうなのだが、大して面白くないわりには結構おもしろい!117分もあって長いが、その弛緩のなかに緊張もまた持続しているような感じがあってかなり不思議な。「これ一体何の映画なん?」みたいな気持ちが続く、それが映画の推進力になっている。犯罪サスペンスでありながら最後に訪れる愛と救済の急展開に最も印象を残すロベール・ブレッソンの『スリ』を思わせるのは言うまでもない。 火曜日。ロベール・ブレッソン『スリ』

          日記(2022/09/06-07)