文化庁のリーチサイト規制案

 文化庁は、リーチサイトの開設行為等を、著作権等のみなし侵害行為の一つとする著作権法改正案を出してきたようです。文化庁が作成した法案を解析してみることとしましょう。

 まず、前提として、著作権法113条の各項に該当する行為は、「当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為」とみなされることになります。文化庁は、リーチサイトの開設行為等を、113条3項に該当する行為とすることで、「当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為」とみなすことにしたのです。

 第一に、「送信元識別符号又は送信元識別符号以外の符号その他の情報であってその提供が送信元識別符号の提供と同一若しくは類似の効果を有するもの(以下この項及び次項において「送信元識別符号等」という。)の提供により侵害著作物等(著作権(第二十八条に規定する権利を除く。以下この項及び次項において同じ。)、出版権又は著作隣接権を侵害して送信可能化が行われた著作物等をいい、国外で行われる送信可能化であつて国内で行われたとしたならばこれらの権利の侵害となるべきものが行われた著作物等を含む。以下この項及び次項において同じ。)の他人による利用を容易にする行為」であることが必要です。
 送信元識別符号とは通常URLのことを指します。「送信元識別符号以外の符号その他の情報であってその提供が送信元識別符号の提供と同一若しくは類似の効果を有するもの」とは、たとえば短縮URLとか、「http」の部分を「ttp」と置き換えたものなどが含まれることになるでしょう。法文上はそれらを総称して「送信元識別符号等」と呼ぶことにしていますが、わかりにくいので、「URL等」と置き換えてみましょう。
 「URL等の提供により」とありますから、今度の改正により著作権等の侵害とみなされる行為は、「URL等を提供すること」を手段とするものだということになります。


 では、URL等の提供によりどのような結果をもたらす行為が著作権等の侵害とみなされるのでしょうか。括弧書き部分を外して読むと、
 「侵害著作物等の他人による利用を容易にする」行為となっていますから、URL等の提供により「侵害著作物等の他人による利用を容易にする」とする結果を生じさせる行為をみなし侵害行為としていこうということになります。
 ここでは、「他人による利用」という言葉が用いられています。「利用」という言葉は、著作権法では通常著作権法において、著作者等に専有権限が与えられている方法での著作物等の複製、翻案または公衆への提示・提供行為を指します。著作物等の「利用」にあたるか否かを判断するにあたって、制限規定の適用を受けるか否かは考慮要素に含めません。
 基本的には、「侵害著作物等」が置かれている場所のURL等を提供することにより、これを見たユーザーはこのURL等をクリックするなどして当該侵害著作物等について送信要求を行い、当該侵害著作物等が置かれたサーバからその送信を受けてそのデータを自己の使用する端末に保存する行為すなわち「複製」という利用行為を容易にするということが想定されているのだと思います。
 これに対し、送信側が純粋なストリーミングサービスしか行わない場合、ユーザーは送られてきたデータを自己の使用する端末に保存しないので、「複製」という利用行為を容易にすることとはならないということになります。
 ただ、YouTubeのような疑似ストリーミング配信がなされている場合、ユーザーは送られてきた断片データを自己の使用する端末に保存しますので、「複製」という利用行為が行われることになります。私的使用目的のダウンロード行為を違法化するにあたっては、YouTubeタイプの疑似ストリーミング配信を違法化の対象外とするために、法47条の8という規定を置いて対処しようとしたわけです(その後、若干の文言変更とともに法47条の4第1項1号に移転。)。しかし、それは、「複製にあたるけど権利制限規定の適用を受ける」と言うことに留まるので、侵害著作物等が疑似ストリーム配信されている場所のURL等を提供すると、「利用」行為を容易にしたとされることになります。

 文科省が113条3項のみなし侵害行為としようとしている行為は、さらに手段が限定されます。「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」を用いて行う場合と、「侵害著作物等利用容易化プログラム」を用いて行う場合とに限定されるのです。ここでは、「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」を用いて行う場合に限定してみていきましょう。
 「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」とは、以下の二つの種類のウェブサイト等を言います。
 一つは、イ号のウェブサイト等で、当該ウェブサイト等において、侵害送信元識別符号等の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト等のことをいいます。ここで「侵害送信元識別符号」とは、侵害著作物等が置かれている場所のURL等を指します。
 もう一つは、ロ号のウェブサイト等で、「当該ウェブサイト等において提供される侵害送信元識別符号等の数、当該数が当該ウェブサイト等において提供されるURL等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるウェブサイト等を指します。
 つまり、イ号のウェブサイトは、侵害著作物等が置かれているURL等について、公衆を殊更誘導するような仕掛けがしてあるサイトをいい、ロ号のサイトは、提供しているURL等の中で侵害著作物等がが置かれているURL等の割合が高いなどの事情があるサイトをいうものと解することが出来ます。
 イ号のウェブサイトの場合、侵害送信元識別符号がそのサイトにいくつ置かれているかを問いません。極端な話、一つでもよいのです。だから、特定のコンテンツに含まれる表現内容を批判する目的で、批判先のコンテンツが置かれているURLをサイト内のページに書き込み、こんな酷い表現が為されている等として当該コンテンツをまず見るように仕向けた場合、それが違法にアップロードされたものであったときは、そのサイト全体がイ号のウェブサイトにあたることになります。テレビ等で為された政治家や著名人等の暴言を批判する場合、だいたい無断でYouTube等にアップロードされた映像にリンクを貼っていると思いますが、そういうことをやると、イ号のウェブサイトにあたるということになります。

 文化庁案では、上記行為が著作権等の侵害とみなされるための主観的要件は、「当該行為に係る著作物等が侵害著作物等であることを知つていた場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合」です。著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を私的使用目的で行うことが違法行為となるためには、その事実を知りながら行わなければならないとされているのと偉い違いです。
 「知ることができた」まで主観的要件を緩くされると、誰の著作物であるか、誰の実演であるか、誰が原盤権を持っているかを知ることができるコンテンツについては、権利者に問い合わせれば、リンク先にある著作物等が著作権等を侵害する態様で送信可能化されているものかを知ることができるので、本当に無名のアマチュアの作品以外は「知ることができた」ということができそうです。テレビ等で為された政治家や著名人等の暴言を批判するためにYouTube動画等のURLを貼り付ける場合、少なくとも日本のテレビ局はほぼ自社のコンテンツを第三者がYouTubeにアップロードすすることについて許諾をしないので、リンク先にある著作物等が著作権等を侵害する態様で送信可能化されているものかを知ることができたと容易に結論づけることができます。

 斯くして、文化庁の思い通りの法改正がなされた場合、既にアップロードされているコンテンツにリンクを貼って批判等をする行為が、広範囲で「犯罪」とされることになりそうです。

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