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図書館司書に救われた話

ちょっといい話、図書館にまつわる思い出話。ふとおもいだして書いてます。暇なとき読んでくださると嬉しいです。


ちっちゃい頃から図書館は大好きで、静謐な空間で司書さんが本を扱うゆったりとした手つきを飽きずに眺めていたものですが、高校卒業とともに上京し、地元の図書館には行かなくなってしまいました。

やがて就職し、休職し、地元でゆっくりする時間ができたとき。時間をもてあまし久しぶりに図書館へ行ってみたら、あの頃と変わらない図書館がそこにあって、見覚えのある司書さんがいて、まるで幼い頃にタイムスリップしたような気がしました。当時の私は心が傷ついており、その懐かしさにはずいぶん慰められたのを覚えてます。


ルドンという、あまり有名ではないが好きな象徴主義の画家についての本が棚にあったのでカウンターまで持っていったら、「ルドンの本なら他にも書庫にあるけど持ってきましょうか」と司書さんが言ってくれ、奥から画集や本人の随筆など何冊か出してきてくれました。


ルドンを知っている人に出会えたのが嬉しくて少しだけその司書さんとお話をしました。彼女は「ルドンは白黒の絵ばかり描いていたけど、カラフルな絵も描くようになっていって、よかったですよね」と言って微笑みました。その変遷は私がルドンを好きになったきっかけでもありました。私はひどく感動してしまいました。



会社で心がなくなっていくような感覚に苛まれ、芸術が唯一の拠り所であった私にとって、このことを語り合える人に出会えたのは救いに近いものでした。また、厳粛な黒の時代から強烈な色彩の世界へと飛翔したルドンの変遷について、誰かと分かり合えたことにも興奮し、司書ってすごい仕事だ!と思いました。


数字に追われ、効率に追われ、理性を最大化させる環境にいた私は、上司に「仕事に心なんていらない」とも言われていました。けれどそのいらない心を痛めて帰ってきた地元のなつかしい図書館で、司書さんとのふれあいを通して、心こそが大切なのだと思い直すことができました。


図書館で得られるのはネットに溢れかえっているような無機質な情報ではなくて、司書という目の前の人間を介した情報であることに、唯一無二の価値があるのだろうと思います。

 

心のふれあいを大切にできる図書館が、私は大好きです。

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