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祭り

17時頃仕事で車を駆ってたら、やけに前が詰まってる。土曜だからかな。相変わらずとれぇからな、休日ドライバーは。事故でも起こしてねぇだろうな、邪魔くせぇ。こっちは仕事なのよ。前の車もそんな中を長々と車間距離とってるせいで、俺の車の進みが尚悪い。もっと前詰めて行ってくれ。タバコが信号一つ越すたびに消えていく。町中を向かう方向に進んでいる。別にたまたまそっちの方に目的地があるだけで、そのど真ん中には全く用がない。でもやたらそちらを目指すのが群になって、俺はその渦に巻き込まれてる。無駄に体のデカい蟻の無意味な行列だ。歩道を見ると、浴衣を着てるのがチラチラ見える。で、そのチンタラ走ってる前の車の後部座席にもどうやら浴衣を着た女が乗っ込んでいた。ああ、お祭りね。そういや誰かそんな事言ってたかな。お誂えで天気も良すぎるしよ。俺は関係無いから本当は逆の方に走り去りたかったけど、まぁ仕事でしょうがなく向かってますよの顔になった。さっきからあんま変わってねぇけど。通りすがりの車の5台に1台ぐらいのドライバーも俺みたいな顔をしてる。俺はそいつらと酒が飲みたいけど。
夏は嫌いじゃない。暖かいとこの出だからかな。で、そんな中での他人の浮いた風景に感化される時期もあったが、あんまりにも無風だと俺みたいになる。どうせ今夜は花火が上がるんだろうな。あれ遠目に音だけ聞いてもうるせぇだけだから。失敗してくれねぇかな。そんな事を思って顔が弛んだら、通りがかりの子供の笑顔と目が合った。あ〜あ。一旦心の声も詰まっちまった。かき氷食ってるよ。君もだいぶ歩いたんだねぇ。出店までまだ何キロあるってとこだよここは。でもまぁ、ここらの殺風景じゃ、年に一回ぐらいこういうのもしょうがねぇか。つうかこんなガキが祭りの喧騒まで相当な距離歩いて行ってんだから、お前も歩けよと前の車を見て思った。大体祭りの賑に車の止め場所なんかあんのかよ。まぁそこに行き着かない頭の悪い奴のお祭り騒ぎに俺があてられちゃってるって事なんだろうな、結局。なんでかそういう連中に限ってパワフルなのよ。絶対にその享楽を得ようとする勢いってのかな。流石脈々と生き残ってきた連中は違うよね。いつもなら五分で走り切るところを十分かけてまだ半分ぐらいしか進んでない。俺はお前らと違って仕事してるのよ。俺にも年一回ぐらいこいつら全部消えてくれる祭りこねぇもんかな。でも正直毎年更新されてくこのクソ暑さだから、あと何年かすればみんな蒸発するんじゃねぇか。ジュワッつって。鼻水が飛び出てハンドルが濡れた。
部屋で横になってたらどっかから花火の音が聞こえた。ベランダからそこらを見たが、ぐるりの空にはその形跡はない。そっか、あっちでやってんだ。さっき走ってた辺りから俺がいるところはもうとっくに大分離れている。俺はまたタバコに火を着けた。ボンボンいってるけど、まだここから逃げられない俺なんかがやる事なんていつも同じだ。俺の嫌気だけを煙に変えて、今日はもう煙たくなってる空に逃がしてやった。

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