博士課程学生に生活費年間240万円支給へ

最近は日本人のノーベル賞受賞者も毎年のように出て、日本の科学技術が非常にレベルが高いように感じます。しかしながら、ノーベル賞受賞者達が口をそろえていうのは、日本の科学研究政策に対する危機感です。

昔は、大学の学部の研究室には講座費というのがあり、年間400万円位何もしなくても入ってきていました。ですから、それを使って自由に研究がやれたわけです。また、秘書さんやアルバイトさんも雇えました。

しかしながら、最近ではこの講座費が減らされて、大学によっては年間50万円程度のところもあるそうです。ですから、研究費は競争的資金という、応募して選考に通ればもらえる研究費を取らなければ十分な研究ができません。

すると、例えば、iPS細胞が流行すると、幹細胞についての研究費が減り、幹細胞の研究所は研究員も研究費も減らされるハメになります。本来、両方とも重要なのですが(しかも、最近では世界の潮流は幹細胞で、日本だけがiPS細胞が主流だという説もあります)。

そういった選択と集中によって、地味な研究に研究費が回らない面もあるようです。頭のいい研究者は文部科学省の考え方に合うように申請書を書けるのでそういうのがうまい人は研究費を取り続けられますが。

日本の研究危機はそれだけではなく、大学等のアカデミックな研究者を目指す学生(大学院生)自体も減少しているようです。これも日本の研究にとって非常に重要な問題です。

人口減少により、東大に入る学生のレベルも落ちているという話を聞きますが、さらに、研究者を志望する学生も減っているとすると、日本の科学研究の将来は暗いと言わざるを得ません。いずれ、韓国や台湾、東南アジア等に抜かれてしまうかも知れません。

博士課程の学生は、大学研究の主体と言っても過言ではありません。博士研究員(ポストドクトラルフェロー)がいればその人達も研究の主体ではありますが、彼らは自分のテーマがあり、大学の先生(教授、准教授、助教ら)の出したテーマをやるとは限りません。

博士課程の大学院生は、指導教授の下で、与えられたテーマをやることが多いです。修士課程から継続して同じテーマで研究することも多いです。

ですから、大学の研究室の兵隊として助教、准教授、教授の手足のような役割をしています。大学院生で、独自でテーマを考えてやりたがる人もいますが、そういう学生は実際にはあまり研究者の世界をよくわかってなくて、大体うまく行かないことが多いです。

よくわかっている学生は、助教以上の研究者の言う通りにやった方が研究が進むし、研究のやり方、考え方を学べることを知っています。実際、先生の言う通りにやる方が研究の進め方を学ぶにはよいです。そうすることで、論文も増え、博士号も早く取れます。

自己流でやっていては、難しすぎるテーマをやってしまい、論文数が稼げず、博士号から遠ざかり、アカデミックポストに就くことも難しくなってしまいます。

優秀な学生ほど、先生のいうとおりにやって、早くたくさんの論文を書いて助教等に採用されます。

ともかく、博士課程の院生は、実質研究室の研究レベルを決める、と言ってもいいほど重要な役割を果たします。そんな博士課程の院生ですが、日本は危機的な状況にあります。

世界では、博士号取得者が増えています。例えば、アメリカは、2000年には人口100万人あたり博士号取得者は141人でしたが、2015年度は259人と大幅に増えています。韓国も2000年には131人だったのが256人とほぼ倍増しています。

しかしながら、日本は、2000年には人口100万人あたり127人だったのが、2015年には118人と減っています。人口も減っていますから、日本の博士号取得者は以前に比べて相当減っていると思われます。

その対策として、政府は、2021年度に博士課程に進学する学生の生活費を支援する制度を新しく作るそうです。7800人の博士課程の院生1人あたり年間240万円を支給するそうです。

日本の博士課程の学生は7万4千人といわれていますから、その約10分の1です。現在別に日本学生支援機構(JASSO)からの奨学金もありますが、生活費を満たす程度に奨学金をもらえているのは7500人程度のようです。

ですから、今回の7800人を追加すると、約2割の博士課程の大学院生が年間240万円、つまり、月20万円の生活費を支給されることになります。月20万円もあれば、仮に5万円のマンション住まいでも15万円残りますから、十分生活でき、国内の学会に参加もできると思います。外国の学会にも年に1回程度なら行けるでしょう。

これなら安心して研究に没頭できますね。アルバイトに割く時間が減り、より研究に集中できるでしょう。ただ、大学の環境によっては少し多いかな?という気もしなくもないです。

私が以前いた奈良先端科学技術大学院大学では、学生寮が完備していて、そこに住めば、月7万円の奨学金でもお釣りが来ていたようです。寮費も1万円ちょっとで、食事も昼は生協、夜は近くのスーパーで半額になった弁当等を買って食べればほとんどかからず、月7万円で貯金ができていた学生もいたくらいなので、そういうところなら月20万円ももらえば半分以上貯金できるかも知れないですね。

ただ、奈良先端大の場合は、研究に没頭する文化があり、ある研究室では研究室に泊まり込みでやるのは当たり前、1週間徹夜で実験したらヒーローみたいな感じでした。ですから、お金があろうがなかろうが、こういうところは研究に没頭するのですが。

いずれにせよ、日本の研究レベルが衰退しないよう、政策面からのサポートがあるのはいいことだと思います。あとは精神面で、ライフワークバランスなどと言わず、研究に没頭して画期的な成果を出して欲しいところです。世界のトップは何日も徹夜で研究に没頭している人もいるのですから。

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