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【メモ】産業クラスター①

noteを始めたきっかけは,研究メモとして使おうと思ったことだったのだが,ずいぶん道を外れてしまっている気がする。たまには研究メモとして使いたい。

産業クラスターのマネジメントは自分の研究に関連する分野である。産業クラスターについては,経営学者であり,実務界でも有名なPorterの定義が引用されることが多い。それは以下のようなものである。

「特定分野における関連企業,専門性の高い供給,サービス提供者,関連業界に属する企業,関連機関(大学,業界団体)が地理的に集中し,競争しつつ同時に協力しつつある状態(Porter, 1998)」

ある特定分野に関わる様々な性質の組織が,地理的に集まって競争しながらも協力している状態ということである。日本では,経済産業省が2001年度に産業クラスター計画を策定し,各地の経済産業局が20程度のプロジェクト立ち上げを支援した。数年前に産業クラスター政策については見たのだが,その後の展開についてあまり追えていなかったので,改めてHP(https://www.meti.go.jp/policy/local_economy/tiikiinnovation/industrial_cluster.html)でチェックしてみた。

産業クラスター立ち上げ期(2001年~2005年)は以下のように説明されている。

「クラスターの実態と政策ニーズを踏まえて、国が中心となって進める産業クラスター計画プロジェクトとして20程度を立ち上げ、自治体が独自に展開するクラスターと連携しつつ、産業クラスターの基礎となる『顔の見えるネットワーク』を形成する」

ここではまず「国が中心」となってプロジェクトが立ち上がる。そして「自治体が独自に展開するクラスターと連携」する。国と自治体がつながる。「顔の見えるネットワーク」はあいまいな表現になっているが,協調するためにコミュニケーションをとりましょうぐらいの意味合いで捉えておく。

続く産業クラスターの成長期(2006年~2010年)は以下のように説明されている。

「引き続きネットワークの形成を進めるとともに、具体的な事業を展開していく。また、同時に企業の経営革新、ベンチャーの創出を推進する。なお、必要に応じて、プロジェクトの見直し、新たなプロジェクトの立ち上げを柔軟に行う」

ここで事業展開と企業の経営革新,ベンチャーの創出が加わる。具体的なあるプロジェクトをきっかけにクラスター内企業の革新と,プロジェクトに関わるベンチャー企業の創出を推進する。その後にあるプロジェクトの見直し,新規プロジェクトの立ち上げについては,具体的にどのように評価し,修正を行うのかが気になるところである。

2001年から2005年まではクラスター形成の準備段階であったといえる。2006年から2010年までは具体的な事業の進行と見直しを積極的に展開していった時期であるといえる。ここで,より具体的な資料(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiiki_keizai/kojo_ritchi/pdf/030_03_02.pdf)を見てみる。

経済産業省の資料であるが,ここに経産省が考える産業クラスターの定義が載っている。

「産業クラスター政策は、地域の企業、大学、研究機関、産業支援機関等の産学官等が広域的なネットワークを構築し、企業間連携・産学連携等によって技術・ノウハウ等の知的資源等を相互活用して、地域の強みを活かした新産業・新事業が創出される内発型の発展を目指す政策」

ある地域に産業が集まっている単なる産業集積ではなく,産業クラスターと呼べるためには,各組織がネットワークを形成している状態のことをいう。この「広域的」がどのような範囲なのかは気になるところなので,そのうち調べてみたい。産業クラスターのメリットは,各組織・産業が持っている知をネットワークを介して共有し,新産業・新事業の創出に役立てられるところにある。要はみんなで知恵を出し合って新しいものを生み出しましょうということだ。

ちょうど具体例として「関西バイオクラスタープロジェクト」が挙げられている。それによれば,地域の範囲としては「大阪市・京都市・神戸市等の自治体とのネットワークを形成」とあるので,たしかに広域である。また約460社の企業が参加しているとあるので,大きな規模である。その中から,例えばマッチングした企業と大学が共同でロボットの開発に成功している。

クラスターでは,そこですべての組織が協働して動くというわけでもないことが分かる。企業だけでも460あって,それがすべて協調していたら,これは計画経済に近い。あくまでもネットワークを形成し,互いに協力し合う姿勢を見せる中で,ニーズがマッチングした組織同士が協働してある成果を生み出そうというものである。だから「顔が見える」ことは重要である。たとえとして適切かどうかはわからないが,マッチングアプリのようなものである。特定の目的(出会い)を持って顔を見せ(少しは良く見せようとするかもしない),互いに利があると思ったら会うことにして,一緒に歩んでいこうとする(ビジネスではミッションを達成すれば関係は基本的に解消)。アプリ内にそういう目的を持った人が集積している。アプリを使ったことがないのでよく知らないが,たぶんそんなに外れてないと思う。

関西バイオクラスターのHP(https://www.kansai.meti.go.jp/2-4bio/ac_data/projectkansai.html)を見ればもっと細かい規模で様々なクラスターがあることが分かる。ここでは詳しく書かないが,とにかく大きな括りのクラスターがあり,そこでクラスターの大目標が掲げられる。その中により細かいクラスターもあり,そこでも目標が掲げられる。そこでマッチングした組織がプロジェクトを立ち上げ,協働して価値を生み出すというのが産業クラスターの抽象的な理解である。

こうやって見ていくと,国内でもかなりの数のクラスターが立ち上がっているようだ。規模は大小さまざまだが,初めに思っていたよりもずっと多かった。すぐに検索して出てくる情報としては,経済産業省のクラスタープロジェクトの報告があるので,これを読み込んでみたい。さらに,2011年~2020年までは「産業クラスターの自律的発展期」とされており,今年が産業クラスター政策の節目のようだ。これについてはまた別の記事で書くことにしたい。


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