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でも、きれいだった

「いつか『あの時あんな空を見たな』と思い出したりするんだろうか」
そう思いながら赤信号で立ち止まり、肩から下げた買い物袋を背負い直し、この時期にしては珍しい大きな雲を眺めた。夕方のトロンとした青い空だった。
あんまり大きな雲だから写真に撮ろうか迷ったけど、車の往来が多く、なんだか気恥ずかしくてやめた。
信号が変わり、静かな小路に入ってこっそりスマートフォンを構えたけど、そこから見た雲はもう形も大きさも違っていた。あまつさえ屋根や電線に分断されていた。

その翌日、わたしは病院にいて、母の余命が残りわずかだと知らされる。
その日の空は覚えていない。

いつも悩みながら書いていますが、その時間がお金として返ってくるかは重視していません。 読んでくださったことが、次の記事への原動力になります。ありがとうございます🕊️