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ベッドルームミュージックの恋人

ささやくように、風が耳元でなびく。
君が笑ったおかげで、風が踊り出したんだ。
遠い記憶、遡れば、どこかで出会っていたのかもしれない。
その香りもする。
昨日と、今日。そして多分明日も忘れない。
君の香りが残った枕を胸の許容を超えるほど嗅いで、
気持ち悪い、そんな自意識すら遠のく麻薬のようだった。

半径1mの光を吸収して、
僕はベッドに横になっている。
感覚を研ぎ澄ませば、ここにいたはず君の音が聞こえてくる。
あの頃はいつだって、僕らは光を浴びていて、
近寄れば寄るほど、それはまさしくバカンスに来た老夫婦のように当たり前で、
だけど高校生のような純粋さも持っていた。

明日はきっと無理だろう。明後日も。
まだここにいる。
でも、シーツを取り替えるのはいつだって僕で、
水道代だって僕の分だけ。
窓から差し込んでくる陽は、どこにも反射することなく
僕に向かってくる。

半径1mの光を吸収して、
アインシュタインの唱えた相対性理論を思い出して。
ここはブラックホール。
いつか僕の記憶まで、飲み込んでくれないだろうか。
シーツのシワが僕の形だけを曖昧に写すように、
ぼんやりしていく記憶をどこか別の場所に写して。

風と光を、音にしないで。


僕=アントニオ猪木 君=松本伊代

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