手紙

先生が満面の笑顔で取り出した手紙は角が折れていた。私は彼女の顔をまじまじと見つめてから、わざと折れた角側から受け取った。
あとで読んで。そう言って彼女はグランビルストリートを南に歩き出す。
 私には自信があって、背中を数秒確認したあとすぐに手紙を開いた。
「あなたの意見はいつも優れていたわ。私の授業を受けてくれてありがとう。 マヤ」
 便箋のどこから使って書き出せばいいか考える必要のない、汚くて短くて性急な文章。やっぱり最後の授業を欠席して正解だった。彼女にとってこの手紙の主人公は私ではないのだ。きっと、エリオットかグレタに向けて書きたいと思ったのが最初だろう。そして教師という立場が全員に手紙を書かせた。つまり彼女にとって私は動機ではなく義務であり、アリバイだった。彼女からすれば、私は取るに足りない脇役だったのだろうが、それを手紙に表象するのは明らかに間違っている。誰かは誰かの脇役だとしても、その誰かがすべての人間の脇役であるわけがないのだから。
 私は一度も手紙をバッグにしまわず、道端のゴミ箱に捨てた。気持ちのこもっていない手紙だからではなく、彼女の自己満足に加担したくなかったからだ。黒くて丸い筒に、次に入れられたのはマクドナルドの袋だった。くしゃくしゃの白いレシートが漏れて見えている。そもそもここで出会いたくなかった。渡されたくなかった。しかし彼女はすでに満足しただろう。
 あれは手紙ではなく、レシートだった。こういを証明したいがためのレシートならいらない。お腹が減って、私はマクドナルドへ向かうことにした。さっきのことをリリックにすると心に決めて。

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