17歳 李錦花

17人目

17歳 李錦花

はじめまして、こんにちは。
いきなりですけど私、知っちゃったんです。この世界の真理に。なんか突然降って来た。そういう夜ってあるじゃないですか。寝る前の、暗い部屋の中で、カーテンから滲む隣のマンションの明かりのせいでなかなか寝れない夜。私にもそういう夜が来て、この世界が、本当の私とその他全ての嘘ってことに気づいたんです。私だけが真実で、他は、ないもの。頭おかしいって思う?とりあえず聞いて?例えば、黄色いスカートを買おうとしている人がいるとする。その人がどんな人かはもちろんわからない。でも、その人が黄色いスカートが欲しいってことはわかる。欲しいってことは、いまその人が持ってないってこと。その人は次にカーディガンを手に取ったとする。その人は持ってないカーディガンが欲しいし、スカートも欲しい。だから買う。誰かが何かを買うってことはつまり、持っていないことの証明でもあるの。だとすると、この店内は持っていないものだらけ。この店内だけじゃないわ。向こうの本屋の平積みされてある本だってそう。平積みされてるってことはたくさんの人が持ってなくて、欲しいと思ってるもの。でも、それって逆に言えば手に入らなくて当然のもので、言ってしまえば理想で、夢で、憧れで、極端な話、嘘でもあると思う。そして買う側からすれば願い。もしくは祈り。あれを持っていれば、あれを持っていればと願う。でも、完璧にすべてが揃うことは永遠にない。嘘を買っても、理想は買った分また遠ざかっていく。全部嘘。世界がコインだとしたら、表はすべて嘘。裏はほんとで、裏の絵柄はすべて私。自分なの。表を欲しがれば、裏の自分が浮かび上がってくる。裏の本当の自分を浮かび上がらせるために、表は嘘でできているの。そう思うと恥ずかしくない?だって、少女漫画を買えば少女漫画的なことを望んでることがバレるし、かといってSFの映画でも見たら、こういう世界に憧れてることがバレてしまう。どうせ嫌なことがあったらこっそりハリーポッターの呪文唱えてたんでしょ!ってな具合にね。だから私は、そういう願いとか祈りとかを悟られないように生きていこうと決めた。服もテキトーに買うし、本や映画も、自分が興味ないものばっかり見ることにする。ご飯なんて、あれだけ同じものばっかり食べて、何の意味があるんだろうって思えてきた。この世界は無駄なことばかり。人と知り合っても、どうせその人になれるわけじゃないし、持ってるものよりも持ってないことが増える一方だし、こんなこと考えてる夜だって無駄。あーあ、苗字にアクサンテギュでもつけて生きていこうかな。そうすれば在日なんて言われなくて済むし。

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