あまりいい事ばかり言ってもあれなので、コミケの負の面についても語りたい。


 前回の内容があまりに良すぎたと思うのと、コミケで嫌な思いをしたことがないわけではない(むしろかなり悪い内容だと思うので、多少注意して読んでいただきたい)ので、それも今回文章化してみようと思う。

 前回の記事で、高校の頃の僕が急速にオタクになった事は説明済みだと思う。オタクである事を隠さなかったので、幸か不幸か、友達はたくさんできた。友達の友達は友達…くらいのノリですらあった。若いを通り越して幼い高校生である、致し方ない。

 初めてのコミケはC70で(物は何も残っていないけど、覚えやすい番号なので覚えている)、確か一人で行ったと思うけれど、さみしさに負けたのだろう。誰か友達のグループとつるんで行こう、みたいな事になった。

 僕は同人誌を作る姉の事を見ていたこともあり、とても真面目なオタクだったと思う。カタログはきちんと目を通し、各種のルールを守ることが大事だと信じきっていた。ところが現実は、集合時間は夜遅く、さも当たり前のように「徹夜参加をする」という取り決めになっていた。

 それを面白くて刺激的で楽しそうだ、と思ったのも僕が若かったからだろう。当時は入場も無料だったし、コミケ直前の深夜のビッグサイト周辺は無法地帯のようだったと言うと言い過ぎだろうか。海外の治安が悪い地域に比べると平和だろうと思うけれど、何も事情を知らない人が見たら、「バカみたいに人がたくさんいるけど一体なんのためだ…?」と戸惑うことだろう。異常な光景だったのは間違いない。

 僕は集団に後から誘われただけなので何も意見することができなかった。ただ体力に物を言わせ、ファミレスかゲーセンで時間をつぶすか、ひたすら並ぶ。入場できたらこれまたひたすら並ぶ。買う。それで終わりだった。小遣い稼ぎの転売目的で人気サークルを何周もさせられたり、怖いグループに誘われた時は、大人のふりして酒タバコをやったりもした。グループの中には、そんなにアニメや漫画が好きでなさそうな風体のがいたり、警備員のおっさんを見て「ああはなりたくねえな」などと平然と口にする、差別主義者の卵みたいのもいた。僕自身も、誘ってくれた友達を嫌うあまり、連絡を忘れたふりをして置いていくという、最低の行為に出てしまった。今ここで懺悔しても何もならないだろうけれど…

「若気の至り」と言ってしまえば、それまでだろう。けれど、それで片をつけていいのか、という気持ちがあるというか、僕自身に勇気がないことが全てを招いてしまったと思う。なにせ、やるだけやったのにちっとも楽しくなかったし、またやりたいとは思わなかった。集団の奴らとは距離を置いた。やることがなくて頭も悪いチンピラグループが、ほんの一時の居場所を求めて祭りで騒ぐ…僕にはそんな風に見えた。僕が創作物から感じた感動や創作への想いとは、まったくかけ離れているように思えた。

 もっと普通の友達と2人でコミケに行ったこともある。ただ、不思議な事に、ほとんど印象というか感想のようなものがないのである。ただ普通に見て回っただけかな、くらいの記憶しかない。その友達ともつまらない事で喧嘩別れして、そのままだ。どうしているだろう。元気にしているだろうか。

 今はコミケの入場には有料のリストバンドが必要で、りんかい線の始発列車が着いた時の様子がすぐネットで見れて、下品に走り回る人の様子も見られない。少しは良くなった、と思いたい。

 何がいいことで、何が悪い事なのかは簡単に決められないし、一概に言えないとは思う。ただ、ひとつ言えるのは、僕は自分が少年期に犯した間違いを、できればこの先繰り返したくはないし、できれば誰にも同じことをしてほしくはない、という事である。できれば世の中の全てのオタクの少年少女に、何がしかの勇気だけは持って欲しい、と願う。カタログにきちんと目を通し、書かれている事を守り、徹夜はせず、自分の買いたいものだけ買い、できれば興味を持ったサークルさんには話しかけ、ゴミは片付け、なにもそんな難しい事ではないと思う。非日常的な場だから忘れてしまうかもしれないけど、でもできれば、そういう時こそ、自分を強く持ってほしいと、元オタクの少年だったおじさんは思うのです…

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