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本能か、ビジョンか。〜浜田昭八・田坂貢二「球界地図を変えた男 根本陸夫」を読んだ。

こちらの本を読み終えました。

2001年発行。

”球界地図を変えた男”という表現は、まさにピタリだと思いました。

特に、1980年代〜1990年代にかけての西武ライオンズの黄金時代、そしてのちに福岡ソフトバンクホークスとなるダイエーホークスの土台を築いた仕事の数々を知るにつけ、根本氏以上に個人の力が及ぶ範囲で野球界全体に影響を与えた人物はいないかもしれない、と思いました。

この本を手にした経緯としては、少し前に読んだ以下の本で、根本氏の仕事を間近で見た多くの関係者が、「根本さんは先見の明があった。」、「ビジョンを持って仕事をしていた。」と証言していました。

一方で、「根本さんは”本能”に基づいて仕事をしていた。」と語る人もいて、成果が出たのは偶然の産物であると言わんばかり。

いったい、どっちだったんだろう?という興味が湧いて読んだのがこの本、「球界地図を変えた男 根本陸夫」でした。


読み終えて、結局どっちだったのかという自分の疑問は、結論からいうと解消できなかった気がしたのですが、そもそもの問題の立て方が間違っていたのかもしれません。


根本氏について、こう書かれていた部分がありました。

根本はまた、人の名前を覚える天才でもあった。名前だけでなく、その人の生い立ちから人脈まで頭に入っていた。人との付き合いを重ねるうちに訓練された技であるが、ベースには「愛情」がある。人間が好き、話が好き、世話が好き。だから指導にも血が通う。その姿勢は根本が次代のリーダーと見込んだ三人(注:田淵幸一、山本浩二、星野仙一)にも、よく理解されたのではないか。

259pより引用


ここでは、人に対する「愛情」について書かれていますが、同じように「野球」に対する「愛情」もとてつもなく深く、それがベースとなり、ときに本能の赴くまま情熱的に仕事を進め、ビジョンの実現に向け突き進んだ、という感じだったのかな、と思いました。

ただ、何の策もなく突き進むのではなく、例えば、チーム強化に長期的に取り組む上で、日本全国から人材をスカウトするために、ボランティアと言われる”根本ネットワーク”を全国に張り巡らし、他チームの目が届かない逸材の情報が自分に届けられるような仕組みを作った。
これは、一見、「チーム強化」という長期的なビジョンを実現するために、”根本ネットワーク”を築く、という緻密な仕事の設計とも取れますし、とにかく他チームのスカウトを出し抜く、という野望(本能)に基づいて行動していたら、結果的に”根本ネットワーク”が築かれていたのかもしれません。

結局、「本能なのか、ビジョンに基づいて緻密な設計をしていたのか?」という二元論的な疑問の持ち方が間違っていたな、と思いました。


二冊の”根本陸夫本”を読みましたが、つくづく惜しいのが1999年4月の”突然の死”。
今回読んだ本でも、あとがきに、”根本氏の伝記を書きたい”という企画を構想していた矢先に、根本氏が突然この世を去ってしまったと書いてありました。

根本氏が亡くなった1999年、福岡ダイエーホークスは王監督のもと初優勝を果たし、翌2000年には、根本氏念願の"ON日本シリーズ"も実現。

ただ、この本を読んで知ったのですが、根本氏は西武の監督に長嶋茂雄氏を招き入れ、実際に2000年に実現した形とは逆の、"巨人・王VS西武・長嶋"という日本シリーズを構想していたそうで、驚きでした。(結局、「長嶋は巨人以外のユニフォームを着る気はない。」と悟り、諦めたそうです。)

根本氏の言葉で語られた”根本陸夫本”がないのは、実に残念です。。



最後におまけではないですが、巻末付録の、根本氏の仕事の一部である選手獲得リストを見ながら、根本陸夫獲得人材で打順を組んでみました。


1番 石毛宏典(遊) ('81年/ドラフト1位西武)
2番 平野謙(右) ('88年/中日→西武)
3番 秋山幸一(中) ('81年/ドラフト外)
4番 清原和博(三) ('86年/ドラフト1位西武)
5番 田淵幸一(一) ('79年/阪神→西武)
6番 松中信彦(左) ('97年/ドラフト2位ダイエー)
7番 野村克也(指) ('79年/ロッテ→西武)
8番 伊東勤(捕) ('82年/ドラフト1位西武)
9番 山崎裕之(二) ('79年/ロッテ→西武)
ピッチャー
先発:郭泰源('85年/台湾より来日)
中継ぎ:工藤公康('82年/ドラフト6位西武)
抑え:江夏豊('84年/日本ハム→西武)


凄いオーダーになってしまいました、、
西武の辻、デストラーデ、田辺、田尾など、ダイエーの小久保、井口、柴原、城島、斉藤和巳、ペドラザなどが入りきれず。

これだけ見ても、根本氏の仕事の凄みを感じませんか・・?

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