「もし予定空いてるならこれ来るー？」
同期で未設定というコンビのツッコミをしている山城。

合コンに誘われたらしくボクは人数合わせで期待と鼻の穴を膨らませながら
二つ返事で参加を決めました。

場所は西新宿のイタリアンバル。
隠れ家的な店を貸し切ってするそうです。

売れない芸人という立場のボクらにとってあきらかな場違い感。

会費は7000円。女性側が一部負担してくれるようです。

いや、たけえ

ボクの一日のバイト代じゃないか。

小雨の中、夜が深まっていく大都会新宿。
店につくまでに道に迷い隠れ家的という言葉に舌打ちしたくなるような気持ちをこらえてボクは店につきました。

男性8人、女性6人のなんともアンバランスな合コンの始まりです。

料理と飲み物も揃い自己紹介をしていく面々たち。
グラスに注がれるシャンパン。
見慣れないモッツァレラチーズとトマトが交互に挟まっている名前のわからない料理。

29歳保育士
38歳システムエンジニア
金融マン
薬剤師
教師
M＆A

売れない芸人には聞き馴染みのない単語ばかりでもう酔っ払いそうになっていたら僕たちの番が来ました。

「イタリアンシェフをしています。」
「100円ショップで働いています。」

あろうことか場の空気に耐えかねて「自分が芸人である」ということを隠してしまったのです。なんという屈辱。プライドとかないのかこいつらは。

しかしボロが出て芸人であることがバレてしまいます。
「一発ギャグとかないんですか？」と耳打ちしてくる野郎がいます。
ないわ！あったとしてもせえへんわ！ほら見ろ！だから芸人って言いたくなかってん！

そんな気持ちもシャンパンと一緒に胃の中に流し込みます。

現実は非常に厳しく、
僕たち「芸人はちょっと、、なしかな、、」と眼の前に座った女の子に言われたり
「すべらない話してくださいよ」とか男前サラリーマンに振られたりしながらも肩身狭くロスタイムを過ごしました。

そして一次会はおひらき。
残る人だけ引き続きこの店で二次会をするそうです。

「この店カラオケあるんだ」
誰かが発したこの一言がこの日のターニングポイントになります。

マイクを渡されるボク。
LOVEマシーンと真夏の果実を歌います。
真夏の果実に関しては若干ものまねも挟みます。
似てはいません。

場が温まってきます。

そして山城にマイクがわたります。

そこからは山城のワンマンショーでした。
ボクは「ホンモノの芸人」の姿をそこに見ました。

場は十分に温まっています。
なのにボケ続ける山城。

全力で振り切ってマンキンで湘南の風を歌い場を盛り上げる山城。
スベりそうになってもおかまいなし。パワープレイでその場から無理やり笑いをとっていきます。

「こいつ今日で芸人引退すんのか…？」と思うくらい、本当に魂を削り、笑いを取ることに全集中していました。

お酒も周りデュエットをする男女も現れます。
女性を口説く素振りなんて全く見せずに湘南の風を歌い続ける山城。
ホンモノです。これがホンモノの芸人です。

こいつ何しに来てん！いい感じになれよ！隣の女の子ともっと喋れよ！

見かねたボクがパスを出しても山城は全部笑いに変えていきます。
もったいない！こいつ男前やのに！ほんで10年彼女おらんのかい！

ボクがいい感じだった女の子は他の男たちに隣を奪われコナンの話で盛り上がってました。コナンの話がわからないボクは後ろからついて歩くのみでした。

そして終電前に解散。

実りかけたボクの恋は迷宮入りになってしましました。

普段安酒しか飲まないボクは慣れないシャンパンが効いたせいかトイレで吐いて涙目で一人寂しく帰宅しました。

帰り道、口直しにファミチキを食べながらこう思いました。

「山城どこいってん！！なんで湘南乃風しか歌えへんねん！！」

色々大丈夫かよ！ツレに「あとでPayPayで払うから」って言われて二次会で山城だけ15000円くらい出してたけど大丈夫かよ！

結論
すごい楽しかったです。
山城はきっと今この瞬間も夜の新宿をさまよっていることでしょう。