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「星在る山」#18 天竺到着

(3011字)
こんばんは。ベストフレンドというお笑いグループでボケをしているけーしゅーです。
ぼくが高3の時、男5人で星を見に行った時の話を書いています。
誰のためでもないですが、前回までのあらすじを念のため載せておきます。

【あらすじ】
ひょんなことから文化祭のクラス出し物で映画を作ることになった受験勉強やる気なしの高3男子5名は、「そうだ、星を見に行こう」と、あろう事か深夜の秩父の山に潜り込むも、山の魔物達の洗礼を浴び、終始ママ助けて状態の中、命からがらになんとか満天の星空にたどり着くが、果たして5人は無事生きて帰れるのだろうか....
それでは、続きをどうぞ。



*18


100円の食パンと2Lの水をさらに補給して、5人は丘を後にした。
iPhone8では、やはり星空の画をカメラに収めることができなかった。 
「山に星空を撮りに行こう」という初めから99.9%不可能だとされていた筋トレ男の提案は、5人の男達が自らの足で山を登り、命懸けで検証した結果、やはり愚案だったと立証された。
これにて、''文化祭の映画のため''という大義名分は、完全に玉砕された。
つまりは我々が今、山にいて、この後も足を前に進めていく理由が、''帰る''以外ただの一つも無くなってしまったのだ。
さらに言うと、ここまで数時間登ってきた分だけ、これからは山を下り、帰らなければならないという事は当然承知の事実であったが、何故だかぼく達はまだ山を登っていた。
山は、登ったら下るのが定説だ。
しかし、ぼく達の登山は完全に登りっぱなしだった。
登山は、下山混みで''登山''なのだから、正確に表記するなら''登下山''ではないか。
そもそもの''登山''という表記にさえ苛立ちを覚えてくる。
何が登山だ。
だいたいこの山には頂上すら見当たらない。
頂上が無いのなら、せめて天竺でも無い限り、こんな危険な旅は割に合わない。
「登りのみの登山は存在するのだろうか」という100%あるはずのない新たな説を立証するために、足を前に進める程ぼく等は阿保ではない。


「本当にGoogleマップはこっちつってる?」
「うん、こっち...だね」
「おれらまだ一回もくだってなくない?」
「ずっと薄っすら登ってるよね」
「全部の山にくだりがあると思うなよ」
「お前には聞いてない」
「なんかほんとに帰れるのかなって思って
 きた」
「せめて太陽出ないかね」
「もう星飽きたよな」


時刻はまもなく4時になるところだった。
携帯の充電は、ここ数時間ずっと懐中電灯として使っていたせいで、残り30%程になってしまっていた。
男5人は半分意識を飛ばしながら、雑談だけは切らさずに足を前に進めていった。
恐怖や不安を紛らわすためではなく、この''瞬間''が現実であることを確かめるために、矢継ぎ早に思い浮かんだ事を口に出した。
食パンの異様な甘さについては再び話題に出したが、実は水まで甘く感じていたことは誰にも言わなかった。 


「タクシーのおっちゃん、よくおれ達に
 三峰神社をオススメできたよな。
 よくよく考えると、完全に戦犯おっちゃん
 だよな。頑張ってね〜じゃねーよ!
 全力で止めてくれよ!」
「確かにね」
「なんか皆もう慣れてきて思考停止してる
 けど、今熊が出てもおかしくないからね」
「確かに」
「つかおれ達もう星見たし、今から三峰神社
 行ってどうすんだろうね」
「三峰神社にさえ着いちゃえば、バス停が
 近くにあるはず」
「飯もある?」
「飯はおれが持ってきてる」
「は?食パン以外に何か持ってきてんの?」
「うん。まぁ後で着いたら」
「不気味だわ。つか、あとおれ金貸すから
 さ、無事に西武秩父着いたら温泉いかね?
 祭りの湯」
「いいね。行ってみたかったわ」
「いいねー。でもおれほんと金無いから
 マジで借りることになるよ」
「おれも借りまーす」
「あんたには貸さないよ。みんなは夏休み
 明け学校で返してくれれば良いからね」
「てか、ちょっとだけ空明るくなってきて
 ない?」
「ほんとだー!太陽だーー!光だーー!」
「何かめっちゃ安心するな」
「太陽ってこんなに安心するんだな」
「これが夜明けか」


光線のように唐突に空から光が刺したのではなく、空自体が丸ごとじわじわと淡い青みを帯びて、周囲の闇を消していった。
暫くして気がつくと、懐中電灯の光りが要らなくなる程、空間が色に満ち始めていた。
5人は懐中電灯の光りを消していく。
自分も「お疲れ様」などと、ベタなことを思いながらiPhone8の光を消した。
ギャランドゥー男が、遂にヘッドライトを頭から外した。
そのヘッドライトの光は、山の入り口から終始ぼく達の''前''を照らし続けてくれた、ずば抜けて明るい光だった。
その光が消された時、何故だかこの旅がもう終わってしまう気がした。


「あれ?着いたんじゃない?」
「ほんとだ!あれだよな!」
「絶対あれだよ!着いたー!!!」
「いや、おっさん遠いって!歩いて行けるか!
 こんなところ」
「なんか、めっちゃ明るくなってきてね?」
「下手したらご来光見れるぞ!」
「また丘みたいなとこないかね」
「なんか階段あるぞ」
「えすげー!何ここ」
「とりあえず登るか!」
「光がめっちゃ溢れてる、写真撮ろ」
「ヤバいねーこれは」
「え、天竺じゃん....」


久しぶりに人工の明かりではない膨大な光りの塊を見た。
急な閃光に思わず目を細めたくなったが、足はその光に向かって勢いよく進んでいった。
「多分おっさんが言ってた星見れる場所って
 ここの事だよな」
「そうだろうね」
「うわ、マジか!これはすげーなー!」
「ここ雲と同じ高さじゃん!」
「ほんとだね!すげー!これは来て良かった 
 なーー!」
「星じゃなくて、このタイミングで良かった
 かもね」
「天竺って本当にあるんだな」 
「なーー」

想定していなかった絶景に巡り逢うことができて、暫く5人は黙ってそれを見ていた。
そして、本日2度目の下手な絶景言語化合戦が始まった。
「とりあえずせっかくだしさ、写真とんね?」
「動画も撮っとく?文化祭で使えんじゃね」
「どこで使うんだよこんな神秘的な映像」
「おれが朝起きるシーンとかで使えないかね」
「朝の描写贅沢すぎだろ」
「とりあえず写真撮ろ」
「まぁ、目に焼き付けようぜ」
「そうだね」
「写真もうセットしてるから、10秒10秒!」
「うそうそうそ!」

「おい、肩組めつっただろ!」
「いやだよ汗くせー。ベッタベタだもん」
「お互い様だろ」
「もう一枚ちゃんと撮ろ」
「おれマジで体臭無いからな。え、マジで
 一回嗅いでみ?」
「無臭でも嫌だ。てか無臭の方が嫌だ」
「つか、お前良くサンダルでここまで来たね
 アホだろ」
「サンダルめっちゃ臭いと思う」
「サンダル''も''な」
「はい、10秒10秒!」
「おい、うそでしょどうする?」
「とりあえず、みんな後ろ向け!」

「おっけー!完璧じゃね?」
「良い写真だね」
「こんなもんスタンドバイミーじゃん」
「後で送っといてー」
「てか、今何時?」
「5時11分」
「5時か。てことは、おれ達6時間山を歩き
 続けたのか」
「やばいね。これが6時間歩き続けて、
 やっと出会えた景色か...」
「来て良かったなぁ」
「皆さん、熊はまだ出ます」
「余計なこと言うなよ」
「まぁでもとりあえず、バスがくるまで
 ここで暇潰すか」
「そうねーー」
「つか、お前何持って来たの?飯って」
「おう、食うか」

筋トレ男はパンパンに膨らんだリュックサックの中から、ガスコンロとパスタとトマト缶を取り出して、ニヤリと笑った。
(つづく)


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