わかれみち

簡単なことなど、何1つなかった。
でも、大変なように見えるようなことも何1つなかっただろうと思う。

時々、雪の結晶のようなキラキラとしたものが
ゆっくりと頭上に舞い降りてきて
わたしをひどく傷つけた。
小さなものが、綺麗に見えるものたちが、わたしを傷つけていった。

それでもあの時のわたしには
そんなものは気にならなかったし
気にしている時間もなかった。
何もかもが惜しくて
傷ついていると感じる暇さえ惜しんだ。

今思い返せば全てが。

全てのものが泣きたくなる程に愛おしく
全てのものが負担ではあった。

それでも笑っていてくれたから。
安心した顔で迎え入れてくれたから。
何度でも、と思った。
そんな日々が、年月が、
永遠に続くような気がして
信じて疑わなかった。

いつだって低かった体温
スヤスヤと眠る寝顔

握り返してくれない手。
起きてと言っても
もう2度とは。

嗚呼、簡単なことなんて何1つなかったのに。
小さくなっていく身体
起きている時間も短くなって
わたしのことも誰だかはきっと。

それでもわたしのことを
誰よりも大切にしてくれたから
独りぼっちにしないでいてくれたから
わたしも誰よりも大切にしたかった。
同じ思いはさせないようにと思った。

気難しく皺がよせられた顔。
わたしの顔を見るたびにほころんだと聞いた。

お互いに、理解されにくい性格であった。
これと決めたら変えられない性分だ。

だからもう
旅立つと決めたことは
受け入れてあげたいとも思うのだが
わたしの心もそう簡単ではなく
今日も泣くのだ。
最愛の人を想って。