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(短編小説+曲)「つばめのように」

(↑リリース後にミックスし直したClear mix Version)

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つばめのように

 幼い頃から好きなものに夢中になり周りが見えなくなるタイプでいちいち極めるまでやるし多方面に好奇心を発揮して各々極めいつのまにか成績もなにやら優秀で何でもできる系女子になっていた。一人で楽しめる性格ゆえ学生の頃は友人もいなかったためか対人スキルのみいつも赤点と診断されるが本人はそんなつもりは無くその結果に憤慨していた。しかし社会に出てその能力をいかんなく発揮して見事に社会人デビューができたので、むしろ頼られてる、そう思っていた。彼女は器用なのである。とはいえ一般社会の常識に疎くポンコツなのはご愛敬…。
 その人に出会ったのはその頃だった。物静かで落ち着いており、大きくないのに大きく見え、少ない言葉は豊富な知識と含蓄を含んでおり珍しく彼女は異性に対して好奇心を発揮し、親しくなった。文明社会に疎くてポンコツなのも同類…、しばしば同じミスをしては二人で大笑いした。人と笑うのは何年ぶりだろう?その時笑っている自分に驚いてはっと我にかえって、恥ずかしくなったのを覚えている。

 電車を乗り過ごすこともしばしば。約束の時間に二時間も早く遅く着いたりすることもしばしば。一緒に失敗したら彼女は「しょうがないわね!」と相手にあてこすって共に楽しんだ。そんな時間が愛おしく、その人の一挙手一投足が興味深く、いつでも見逃すまいと、その足取りまでも気になった。それどころか会っていない大半の時間のその人の行動を見ていないことが本当に自分の人生の損失のように思えてきた。昔から好きなものに夢中になり周りが見えなくなるタイプでいちいち極めるまでやる彼女のいまや唯一に凝縮された趣味であった。その人のポンコツが先走った時は「しょうがないわね!」とお姉さんぶって助けるのも楽しいひと時であった。他方職場やコミュニティで彼女は相変わらず敏腕を振るったが少し集中できなくなっており時折ミスもした。そんな時おびれ背鰭がついて彼女が冷たいだの人間味が無いだのの中傷がかけめぐっても彼女は従来通り気丈に意に関しないふりをしていたが実は昔より傷つきやすくなっていた。

 彼女は変化に気づいていた。
 普段の生活が、見える景色が一変してきて何気ない生活の一つの所作にも意味を感じて、季節の移り変わりに初めて気がついて、人の優しい気持ちに触れて涙して、その時自分が初めて恋していることに気がついた。自分が十分優しいかどうか不安で仕方なくなった。そのための本を読んでみるけど当たり前のことしか書いておらず空回り。髪型とカラーを変えてみても気がつかれず空回り。美味しい料理を作れるようにと頑張ってみたけどあまり反応がなくまだまだ実力不足…。その人が側にいるのが当たり前になっていた。初めて結ばれた日は涙が溢れて止まらなかった。ハイトが高めの私に比べその人はそれほど大きくなかったが着痩せするのか意外と背中は大きかった。でもそれからどうしたらいいの?分からなかった。恋人のつくり方のマニュアル本は売っているが恋人になったらどうすればいいか、その後何が待ち受けているかを詳しくしたハウツー本は見つからなかった。ふたりは時間の許す限り共にいるようになっていたから、「しょうがないわね!」と言う機会は増えていたけど、その時笑っている自分に驚いてはっと我に返り、考え込んだことを覚えている。私、いつのまにか真剣になっている…、と。

 普段はどんな仕事でも家事でも趣味でも何でも出来て明るく多彩なはずなのに、こうなると不安で仕方がない、何かミスしてその関係を壊したくないとばかり考えるようになって、雑念ばかりが潮のように思考に押し寄せるようになって困った。その人はというと物静かで落ち着いているのは相変わらず、そして大きくないのに大きく見え、少ない言葉は豊富な知識と含蓄を含んでいて相変わらず感心させられ、心から尊敬できたのであったがショートメッセージの返事は遅かった。とまれ本当の気持ちを聞いたことがあったろうか?そういえば私も真に迫ったことを告白したことがあったろうか?無かった。いまさらそれは難しい話しであった。それはおそらく一言なのだろうがその言葉は刃物のようにこの物語に決着を付けかねないと思われた。不安はますます募った。これではこの幸せがいつまで続くか分からない。そもそもこんな不安な状態、これが幸せなのかどうかも分からなかった。そのような事は考えたくなかった。送る言葉に何時間もかかり、返すメッセージも打ち直し。こちらから送るのは何か動機というか必要性というかきっかけが、たとえば雨でも猫でも降らない限りとても躊躇された。自分から送る時は何気ない用件でも祈るような気分でポチした。その人からのメッセージにはなるべく早く返事をしたが、その返事は相変わらず遅かった。変わらない人だった。なので会話が続かない返事を心がけた。返事を待つリプをして、なかなか返ってこなければ、心に悪魔が忍び寄ってくるからだ。

 ある日一日返事が無かった時は生きた心地がしなかった。

 そのあと駅で待ち伏せして見つけた時、彼女は泣いて、本気で、その駅前で、初めて泣いて本気で怒った。その後しばらくは返事は早くなったが、次第にまた遅くなって、前よりも遅くなってきた。その人は相変わらずだった。変わらない人だった。彼女はなるべく考えないようになっていた。仕事や趣味のパフォーマンスはめっきり低下した。心は曇り空のつばめのように低空飛行していた。

 彼女は昔の事を思い返してみた。幼い頃好きなものに夢中になり周りが見えなくなるほど集中して楽しんでいたあの子はどこに行ったのだろう…。遠くから幼い自分がこちらを見つめているような気がして、やはり、考えるのをやめた。

 彼女は、今日も、雨が降るのをただ、待っている。

 †

歌詞

「(詩)悪魔の病」の物語

アンサーソング

 たくやぐみかんぱにーさんがアンサーソングを書いてくれました。ぜひご視聴ください。

 †

作詞作曲編曲うた:betalayertale

*1 記事が分散するので、今後、プレビューはyoutubeにします。そちらで頂いたコメントは下書きにして大切に保存させていただきます。有難うございした。

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2504文字






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