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ゴジラ

 ビーッ ビーッ ビーッ!

 突然、陸上自衛隊作戦司令室に警報が鳴り響いた。


「なんだ!? どうした!?」

 俺――deroga三佐は慌ててウマ娘をやめると、部下たちに報告を求めた。

「大変です!! 三!!」

 慌ててウマ娘をやめ、報告してきたのはうと二曹だ。真面目で頼れる部下だが、イラ○チオでしか抜けないらしい。

「っ佐をつけろよデコ助野郎! 何があった!?」

「ゴジラです!! 天然のゴジラが上陸しました!!!!」

「なん、だと・・・・・・?」

 天然の? いま、天然のゴジラって言ったよね? 

 え? 養殖のゴジラとかいんの? マジ? 俺が無知なだけ? え、鮮度とか違うん?


「場所はどこ!?」

 ウマ娘をしながら叫んだのは、すてる二尉だ。美人な部下だが、ウマ娘やめろよお前。

 しかし、たしかに場所は重要だ。ふつう、ゴジラって東京湾から品川とか通ってくるよね。


「秋葉原です!!!!」


 え? マジ? そっからくんの?

 いやでも、オタクのゴジラだったら秋葉原とか通ってくるか。アニメイトとか虎の穴とかハシゴしてくるか。

 待てよ、歩行者天国とかラジオ会館も外せないよな。神田神社でお参りとかもするかもしれない。となるとゴジラは、アニメイト→歩行者天国→神田神社→ラジオ会館→虎の穴とかいうルートでくるかもしれない。

 そういえば、最近アキバに風俗が増えてるらしい。時代に合わせて変化する街とはいうけど、これって結構皮肉な話だと思わない? 時代の流れって残酷だよね。


「何ぼーっとしてるんですか、三浪!!」

 パシンッ

 うと二曹に頬を叩かれた。

「あなたがしっかりしないで、誰が指示を出すっていうんですか!!」

「あ、ああ・・・・・・すまない。俺が間違ってたよ・・・・・・」

 ――お前を殺さなかったことをな。覚えとけよマジで。その右手を切り落として、末代まで呪ってやるからな。あと三浪っつったよなお前。


「えーっと・・・・・・」

 あいつを殺すのはとりあえず後にして、まずは何をするべきだろうか。

 住民の避難とか? いやでも勝手に逃げるだろ。ゴジラ来てんだし。『あ、ゴジラ来てんじゃん。それはそれとして、スマブラしようぜ』とかならんでしょ普通。言うだけ無駄だし、まあ住民はほっとくか。

 となるとまずは・・・・・・


「――戦車を出せ。一番いいやつをいっぱい出せ!」

 やっぱ戦車だよな。10式だっけ? シンゴジラで見たやつ。あれなら勝てんだろ。今の戦車、走りながら目標に弾当てれるらしいよ。科学の力ってすごいよね。あれ、でも作中で負けてたような。・・・・・・まあ、いっか。

 しかし、うと二曹は、難しい顔で顎に手を当てていた。


「うーん、今出せるのは二両だけですねー」


 ・・・・・・え? 

 親戚とのバーベキューパーティーでもワゴン車三台くらいは出てくるぞ?


「なんか、少なくね?」

「うーん、でもそれしか・・・・・・」

「どっか、裏とかにないの? 倉庫とか」

「あー、そこにないなら無いですねー」

 いや、ダイソーの店員じゃないんだからさ。


「パターン青!!!! パターン青です!!!!」


 その時、作戦司令室に新しい声が響いた。

「どうした、やみ三曹!!?」

 見れば、昨日入ったばかりの新人――やみ三曹が、ノートPCを覗き込んで震えていた。手に持ったスマホでは、もちろんウマ娘をプレイしている。

「こ、これは――」

 俺は、その背後から画面を覗き込み、あまりの事態に愕然としてしまった。


「LUCA Note PC――!?」


 なんでお前アイリスオーヤマの新作ノートPC使ってんの!? ここ国防の最前線なんですけど!?

「デザイン性と耐久性に優れていたので・・・・・・」

「ま、まあそれはいい!!   しかし、パターン青か・・・・・・」

 いや、マズいな。パターン青はマズい。

 何がマズいって――


(――パターン青って、何だ!!?)


 俺は、パターン青が何か知らないのだ。え、君たち、いつの間にそういうの決めてたん?

 まって、俺知らないんだけど? LINEグループとかすでにある感じ? もしそうなら、入れて欲しいなー、なんて。あ、ダメ? 理由とか聞いても――あ、大丈夫大丈夫。ダメならいいから、うん。あ、いいよ、向こうのグループに戻ってもらって。あ、ごめんね、こんな一人で飯食ってるやつが呼び止めたりしちゃって。うん。またねー。


「――はッ!!?」

 いかん。思わず黒歴史を思い出してしまった。

 しかし、困ったな。いまさら、「パターン青って何?」とか聞けないぞ。

 と、思っていると。


「パターン青って、何?」


 美人だけど仕事しないでお馴染みのすてる二尉が聞いたーー!! いいぞ、ナイスだ!! でもウマ娘はやめろ!!

 すると、新人のやみ三曹はぽりぽりと頬をかいた。


「あ、なんとなく言ってみただけです」


「・・・・・・は?」

 殺すぞお前!? いま、めちゃくちゃ焦ったんだからな!? え、この状況でふざける奴いる? ゴジラ来てんだぞ!?


 しょうがない・・・・・・。

「やみ三曹。君は、この作戦司令室にふさわしくない。本日をもって退職していただきたい」

 退職勧告は、いつだって辛いものだ。でも、しょうがないじゃん。だってこいつ、ゴジラ来てんのにパターン青とかホラ吹くんだもん。


「deroga三佐・・・・・・」

 うっ。瞳を潤ませてこっちを見ても無駄だぞ。


「タメ口でいいよ(笑)」


「ッ殺す!!!! マジで殺す!!!!」

「まあまあ、新人さんですから」

 暴れる俺をうと二曹がなだめていると、すてる二尉がポツリと呟いた。


「ていうかその子、インターン生でしたよね?」


 ・・・・・・は?

「え? なになになになに!!? ここ、作戦司令室だよね!!? インターン生とか入れてんの!?」

「昨今、自衛隊も人材不足ですし・・・・・」

「限度があるでしょ!!? ゴジラ来てんのに『パターン青です!!』とか言う奴入れちゃダメでしょ!? ていうか何階級与えてんの!? 三曹ってそこそこ高くない!?」

「あはは、後ろがにぎやかですねーw あ、スパチャありがとうございます」

「やみ三曹おおォオオオッ!!!! ゴジラ来てんのに作戦司令室で配信するなああああああッッ!!!!」


 はぁっ・・・・・・、はぁっ・・・・・・!! まずいな。なんだか作戦司令室の空気が緩んでいる。

 後ろを見れば、さっきまで黙りこくってウマ娘をしていた連中も、ふらふらと出歩き始めた。


 その中の、部屋を出て行こうとする一人と目が合った。

「あ、ちょっとお花摘んできますね」

「孔明一曹? なに急にトイレのことお上品に言ってんの? 今までお花摘んできますとか言ったことなかったよね!? 非常時なんだから言葉づかいとか気にしてる場合じゃないでしょ!?」

「糞尿垂れ流してくる」

「そこまで汚くしろとは言ってねえよ! さっさと行けよもう!」


 後ろから、恐る恐る声がかけられた。

「あの、deroga三佐・・・・・・」

「どうしたまつ二士?」

「Twitterのターゲット広告が不快なんですけど・・・・・・」

「知らねえよ!! お前が不快だからターゲット広告も不快なんだよ!!」

「え、そんな・・・・・・」


 息を切らして追い返すと、今度は肩に手が置かれた。

「なんだプリカス三尉!!? 俺は今忙しいんだ!!」

「右ききと左ききってあるじゃないですか。乳首にもそれってあるんですかね?」

「忙しいって言ってんだろオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!? それ今じゃないとダメかなああああああああああああ!!?」


「はぁっ・・・・・・!! はぁっ・・・・・・!!」

 もう、限界かもしれない。

 もう、諦めたほうがいいのかもしれない。

 クソみたいな設備。

 クソみたいな部下。

 こんなんで、ゴジラに勝てるわけがない。


 ――だけど。


「――俺は、諦めない!!!!」


 よし、まずは戦闘機を手配して、各国に応援を要請――


「あの、deroga三佐」

「なんだうと二曹。今いいところだぞ」

「窓の外に、なんかいます」

「・・・・・・へ?」

 窓を開けると、巨大な目と、目が合い――


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!


「ご、ご、ゴジラだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


 叫ぶ、俺。


「あの口でイラ○チオされたら、一体どれほどの――」

 恍惚とする、うと二曹。


「あ、ゴールドシップA+きた!!」

 ウマ娘をプレイする、すてる二尉。


「なんかパソコン熱いな・・・・・・爆発しそう・・・・・・。え? ゴジラですか? じゃ、僕ヘリで逃げますね」

 部屋から走り去る、やみインターンシップ生。


「あの、まつがなんか死んでましたよ」

 トイレから帰ってきた、孔明一曹。


「・・・・・・・・・・・・」

 何も言わない、まつ二士。


「あっ・・・・・・! やっぱ俺右だ・・・・・・!」

 乳首を弄る、プリカス三尉。


 その全てを。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!


 ゴジラは、一息に踏み潰した。


 グシャァッッ!!


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!



 ――――。


「いやー、驚きましたよ。まさか、私の持ち込んだノートPCが、ゴジラを巻き込んで爆発するなんてね。おかげで日本は救われた訳ですけど、そのPCを買った本人としては、けっこう複雑ですよねw」


「あ、脱出ですか? あれはかなりギリギリでしたね。爆風でヘリがめっちゃ揺れましたもん。いやー、あれは怖かった。この身分になった今も、あの時のことは忘れられませんよ。あ、赤スパありがとうございます! 赤スパてんきゅ☆」


「じゃ、そろそろ仕事なので、終わろうと思います。あ、スパチャ読みは今度しますね。じゃ、これで・・・・・・寂しい? はは、また明日枠とってますからw それまで、アーカイブでも見ててくださいw」


「それでは、おつやーみ☆」


 ――――――。


「よろしいのですか? やみ陸将」

「はは、タメ口でいいよ。ま、これも自衛官募集のための大事な活動だけど、そろそろ仕事もしなくちゃね」

 私は、重い腰を上げると、新人隊員が集まる講堂に向けて歩き出した。

 講演会のタイトルは、『ゴジラを倒した英雄が語る、陸上自衛隊の在り方とは』。


 私は壇上に上がり、口を開いた。

「私はあの時、とっさに叫びました。『パターン青!』と。その意味は、こうです。『――己の全てを犠牲にしてでも重大危機を切り抜け、後世に継承せよ――』。やっと、この指令を全うすることができます。あれは、ある暑い日のことでした――」

                        終わり


 


 


 

 




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