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~とある男の記憶 ~


 「ここは一体、どこなんだ・・・?」

 目を覚ました俺は、見知らぬ空間にいた。むせかえるような犬の香りがする、犬の毛だらけの部屋だ。ふと足元を見やると、モップのような犬が、カーペットに身を横たえている。

 「いや、俺はここを知っているぞ・・・。」

 徐々に記憶を取り戻してきた。俺は○○○○。ごく普通の家庭で生まれ育ち、一匹の犬と暮らす、性欲強めの高校三年生だ。

 「記憶が飛ぶなんて、俺大丈夫かな・・・?」

 そう呟きながら、俺はスマホで遊ぶ戦車ゲーム、World of tanks blitz を起動した。勉強に追われる受験生にとって、ゲームをする瞬間は最高のリラックスタイムだ。最近は、この戦車ゲームをボイスチャットを繋ぎながらやるのにはまっている。

 今日のVCは、人がたくさんいたクランGU6_Bのクランマスターとして、活気があるのは喜ばしいことだった。

 「・・・ん?」

 上機嫌で戦車を操っていた俺は、ふと、誰かがこの部屋に近づく気配を感じた。・・・母親だろうか?しかし、今はまだ夜の10時。今日の勉強は済ませたし、全く夜更かしと言えないこの時間に怒られるなんてありえない

ミュートにしとく必要もないか。そう判断した俺は、再びゲームに集中しようとした。

 刹那。


 「バァァァァァァァアン!!!!!!!!!」



 ドアが吹き飛び、木片が部屋中に爆散した。迫りくる風圧と木片を腕で必死にかばいながら、俺は無我夢中で頭を回転させる。

 「誰だ!!?どうしてこうなった!!?俺は何も後ろめたいことはしていないのに!!!」

 木片が止み、パラパラと舞い落ち始めた。俺は、恐る恐る目を開けた。



 ーーーーー母だった。俺を育て上げた女性は、ゆっくりと口を開き、呪詛のように言葉を紡ぎだした。


 「8時には寝なさい。○○○○(実名)、ママ言ったよね?ーーーーーー」


 そこから始まったのは、永遠とも思えるような無限の説教。


「うおぉぉォォオオオオオオオオオ!!!!!!!」


 憤怒、悲哀、理不尽、嗚咽。あまりの感情の奔流に視界が真っ白に明滅した俺は、母親が去った後、膝から崩れ落ち、一人慟哭した。足元の犬を見ると、俺を憐れむような眼をしていた。そんな目で見るな・・・。

 「・・・ん?待てよ?」

 そこで俺は、気づいてしまった。

ミュートしてなかった。


スマホから流れる笑い声を遠くに聞きながら、俺はゆっくりと意識を手放したーーーー。

 

 



 



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