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日本生まれの幻の馬。

 問題。

 日本産馬で初めて海外で国際G1を優勝した馬は?

 シーキングザパール? タイキシャトル? 残念。彼らはマル外。

 フジヤマケンザン? 国際G1じゃない。

 正解は、そう、ステイゴールド……ではない。

 正解は……

 シーヴァという牝馬だ。

 この馬は日本で生まれたのちに海外の馬主に買われ、国際G1に昇格した台一回のタタソールズゴールドカップを優勝した。

 アイルランドのカラ競馬場で行われるおよそ2100mの芝のレースで、前身となるレースは古く1962年から施行されている。開催時期は5月の第四週ごろにあたり、春先の中距離路線でいうところの産経大阪杯から大阪杯へとつながるようなレースだ。

 第二回には凱旋門賞(前年の話にはなるが)でエルコンドルパサーと死闘をくりひろげたモンジューが優勝し、続く第三回ではステイゴールドとドバイで死闘をくりひろげたのちに、ファンタスティックライトが優勝している。その後も凱旋門賞を優勝したハリケーンランや、G1を5連勝したデュークオブマーマレード、英国チャンピオンステークスを優勝したファスティネイティングロックアルカジームフェイムアンドグローリーマジカルなどが名を連ねる、春の欧州G1戦線になくてはならない大レースとなった。

 大阪杯にもぜひこうなってほしいものである。

 さてそんな大レースの第一回を優勝したシーヴァ。

 どんな馬か。

 父にヘクタープロテクターを持ち、母はランジェリーという馬で、全兄も日本で生まれ、のちにフランスへ渡り善戦を称されて種牡馬にもなった。

 母の父にはシャーリーハイツという馬がおり、本馬をしてはピンとこないものの、その父ミルリーフ、その子ダルシャーンと言えば、なるほどそういう血統の馬かとわかる人も少なくないだろう。

 もっと言うとシャーリーハイツの産駒として日本にロゼカラーがやって来て、当時デイリー杯3歳ステークスを優勝、秋華賞3着と健闘し、その孫の代にジャパンカップを(くりあげ)優勝したローズキングダムが誕生している。

 将来の青写真を引く朝日杯FSで優勝し、その後日本を代表する馬の座であるジャパンカップを優勝した馬も、このローズキングダムただ一頭だけなのだ。

 母ランジェリーはニアルコス家というギリシャ生まれの貿易商の所有する繁殖牝馬で、のちの繁殖成績により、「さすがはあのお方の所有する馬だ」ともてはやされるようになる。

 このニアルコス家はとんでもない大富豪で、絵画や美術品の蒐集に精を出し、一方で投機の対象として競走馬を多数所有している。その馬の一例の筆頭にヌレイエフがおり、バゴ、キングマンボ、ミエスク、シャンハーイ、スピニングワールド、イラプト、などなど、世界的な名馬を数多くファミリー名義で所有している。

 日本でいうところのディープインパクトとキングカメハメハ、クロフネを所有している金子真人HDのようであり、生まれの順番から言えば、金子真人氏は和製ニアルコスと言ったほうがより正確だ。

 このランジェリーという馬に、吉田善哉氏が購入し、日本のノーザンファームで繋養されていたヘクタープロテクターをつけてほしいという願いによって、シーヴァは誕生している。そしてニアルコス家が買い上げ、前述のとおり日本産馬初の海外国際G1を優勝することになる。

 またランジェリーとニアルコス氏の所有馬であるキングマンボとの間に生まれた姉妹、ライトシフトとストロベリーフリッジも、繁殖牝馬として成功をおさめた。

 ライトシフトにはエクリプスステークスと英インターナショナルステークスを優勝したユリシーズがおり、ストロベリーフリッジにはガネー賞を優勝し、凱旋門賞では2着3着の実績を誇るクロスオブスターズがいる。

 そしてランジェリーの産駒としてレトⅡがおり、これは日本で繋養されて多数の競走馬をJRAへと送り出している。みんなよく頑張って走っている。

 時代は牡馬が作るが、歴史は牝馬が紡ぐもので、古くはスターロツチや第二スターカツプ……いわゆるシラオキなどが、後年の名馬につながる血を残している。

 シーヴァをしてその血には、幾千万の時代と歴史が流れており、少し紐解くと、ただ日本で生まれただけではなく、日本競馬とのつながりが、細くけれども確かな一本の線で結ばれていると感じることが出来る。

 シーヴァの血が歴史を紡ぎ、いつか日本に凱旋することを願って。

 

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