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意識の浮沈み 時間の消失

視界は暗かった。

眠っていて夢を見てるのとは違う。

目覚めていて目が見えないのでもない。

視界の利かない沼の中をふうわりふうわりと漂って、時々ぼんやりした明るいものを見つめては、またゆっくり沈んでいく。その繰り返し。

そこには上下左右前後の区別はなくて、時間の経過も感じられなかった。夢でも時間の流れはあるのに、なんにもない。

わたしは人生で初めて「意識を失う」経験をしたのだけど、もしかしたら三途の川のそばにもいたのかもしれない。

後から聞いたことだけど、救急車で運び込まれた時の血糖値は1200を超えていて、家族は「心臓が止まるかもしれない」と言われたそうだ。

発見された時、顔面が血だらけだったらしい。それで見つけた町会のおじさんは救急車を呼んでくれた。最初に運び込まれた病院では、おじさんの証言からか頭部打撲の疑いで検査をしたが特に異常はなく、同時に行った血液検査でとんでもない数値が出た。

そこで「ココでは無理だからもっと大きな病院へ」と再度救急車に乗せられ、東京都指定のERがある墨東病院に担ぎ込まれた。

という次第は全て意識が戻ってから聞かされたこと。その間の記憶はひとかけらも無い。

おそらく、タンカに載せられたり救急車に乗せられたり検査機器に入ったり出たり採血されたり点滴されたりしたのだろうけど、何も覚えていない。痛みも寒さも暑さも感じなかった。

ただ暗くて薄ぼんやりとしてふわふわと漂っていた。

少しだけ明るい方向に近寄ったとき、大声で呼びかけられたのに答えられなかったな、何故かなと考える。結論が出せないまま、また静かに暗くなる。

産まれる以前も、こうなんだろうか。


その時、肉体の方は大騒ぎを引き起こしていた。

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