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疫病/暗殺/イスラエル|2023-11-06

今回は、うでパスタが書く。

著名な政治家・俵藤慶一の、短い演説。
「テロリズムの撃退、テロリズムの制圧の、史上もっとも成功した例を、河原さんはご存じだろうか。エールフランスの旅客機がハイジャックされて、この旅客機はリビアで給油、それから東アフリカのウガンダに移動して、その南部の湖畔の都市、エンテベの空港に着陸した。この事件を、一九七六年に起きた兇行(これ)を、河原さんは、そうかご存じだ、僕たちは同年配だから。乗客は二百六十名近かった、しかしイスラエル人とユダヤ系の乗客、乗員、それはだいたい百人はいた、百人と少しいた。それ以外は、解放された。しかし百人を超える人質がいたんだ。犯人たちは収監中のパレスチナ人の、これはゲリラだ、パレスチナ・ゲリラ五十名あまりの釈放を要求した。そして要求をつきつけられた国々のなかの、イスラエル、筆頭のイスラエル、このイスラエルは原則としてハイジャック犯との交渉は、しない、ない。だが交渉に入った。表向きは、そうだった。交渉だった。いっぽう、裏で、イスラエルの特殊部隊が、奪回作戦に動いた。百人とも二百人とも言われる戦闘員がウガンダに入って、空港に奇襲攻撃をかけた。じつはその空港、エンテベ空港の建設をイスラエルは、過去、援助していた。つまりターミナルの構造を把んでいた。他にもいろいろ作戦はあった、いずれにしても奇襲は成功した。ハイジャック犯は全員、全員とは何人だったろうか?七人か?それが射殺された。人質の巻き添えは三人。しかし、他は無事だった。無事で、イスラエルに連れ帰られた、連れて帰ったのは特殊部隊だ、これは凱旋だった、用意周到な計画がもたらした勝利だ、大成功だ。しかし特殊部隊側の犠牲者、死亡者は、なかったのか?あった。一名、犠牲になった。名前はヨナタン・ネタニヤフだった。この犠牲者は英雄になった。イスラエルの英雄に、だ。そしてこの英雄には弟がいて、名前はベンヤミン、ベンヤミン・ネタニヤフ。

「の、すべて」(古川日出男/講談社)

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