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『黒と誠』を創った男たち――ではないが連載開始を少し早めた男たち

読書ヤンキーギャグマンガ『どくヤン!』の作画担当・カミムラ晋作が、双葉社の文芸サイト「COLORFUL(カラフル)」で連載中の『本の雑誌』創刊秘話を描く『黒と誠~本の雑誌を創った男たち~』(タイトル画像は下記ページよりお借りしました)。

この度、同作の単行本1巻の刊行が決まったとのことで、ついでと言ってはなんですが、ちょっとした小話を。

「『本の雑誌』を創った男たち」は目“黒”考二と椎名“誠”。
「『黒と誠』を創った男たち」はカミムラ晋作と担当編集者。

これはマンガを読んでいなくても、分かる人には分かる話。
では、「『黒と誠』の連載開始を少し早めた男たち」は……?

という内容です。
ただ、色々と予備知識が要りそうな話なので、まずはそこから。
ご存知の方は飛ばしてください。

予備知識①『どくヤン!』とは

そもそも偶然このテキストにたどり着き、『どくヤン!』自体をご存知ない方も多いでしょう。
読む時間がなければ、「3巻で打ち切られた読書ヤンキーギャグマンガがあった」ことだけ覚えていただければOKですが、よろしければ下記のテキストをご覧ください。

この『どくヤン!』の作画担当がカミムラ晋作。原作担当は左近洋一郎(ルノアール兄弟)。そして同作には「協力」という立場の者がいて、それがこのテキストを書いている私、仲真です。

予備知識②『本の雑誌』とは

詳しいことは、ぜひマンガ『黒と誠』(単行本発売後は分かりませんが、今のところ全話無料公開中)を読んでいただきたいのですが、『本の雑誌』という、読んで字の如し、様々な切り口の本にまつわる特集や、書評などが読める月刊誌があります。

先ほども書きましたが、この本の雑誌を創った中心人物が二人います。
一人は「北上次郎」や「藤代三郎」等の筆名の活動でも知られる目黒考二。
もう一人は“怪しい探検隊”シリーズや『アド・バード』などの著作で知られる椎名誠。

『黒と誠』は、黒――目黒考二による、『本の雑誌』創刊までの歩みや、黎明期の「配本部隊」のドタバタや活躍を描いた『本の雑誌風雲録』と、同時期を誠――椎名誠目線で描いた『本の雑誌血風録』をベースとし、しかしこの2冊が完全な原作というわけでもなく、カミムラさんがその他の二人の著作を読み込んだり、関係者への取材も行ったりして、その成果もガッチャンコしてマンガ化した作品です。

ちなみに、1976年に個人の活動として始まった『本の雑誌』は1980年に「本の雑誌社」として法人化。今日まで同誌や単行本の刊行を続けています。
今の同社の経営に目黒さんと椎名さんは関わっていませんが(そうなったのも大分前の話であるはず)、『本の雑誌』への寄稿や連載といった形で関係は続いています。

予備知識③『どくヤン!~読書ヤンキー血風録~』とは

「とは」も何も、初出のワードですが、『どくヤン!~読書ヤンキー血風録~』という単行本があります。

講談社の漫画サイト・アプリの「Dモーニング」「コミックDAYS」で連載していた『どくヤン!』。
全3巻で完結した同作では、電子書籍に対する概念として「物理本」というワードが登場します。
言うまでもなく、読書ヤンキーたるもの、読書は物理本でするべきなのですが(暴論)、講談社からの物理本は1・2巻だけで、3巻は電子版のみの刊行となってしまいました。

3巻で打ち切られてしまうというのは、人気が微妙だったということです。
ただ、マンガ好きにうまく届かなかった作品ではあるものの、活字クラスタ――小説家や出版社勤務の方など――には結構読んでいただけていた実感があります。
そして、2巻発売時、物理本のカバーそでにて、3巻の刊行が電子版のみの予定とアナウンスされたのですが、それを見た本の雑誌社の方が「弊社で出してもいいのでは?」みたいなツイートをされていたのを見かけました(私の記憶が確かならば)。

もちろん、あくまで予定なので、実際に3巻が出るまでにバズったりすると物理本も出る可能性はゼロではありません。
なので、一旦は頭の隅に置きながらも、「3巻が電子版のみの刊行となったら、本の雑誌社にご相談してみなければ……」とは思っていました。
カミムラさんと左近さん、講談社の担当・鈴木さんにもその話はしていて、実際に3巻が出るときも、物理本は講談社以外から出す可能性がある点を了承いただいた上で電子版の契約を結びました。面倒な話に対応してくださった鈴木さんや講談社の関係各位には本当に感謝しています。

で、件の『どくヤン!読書ヤンキー血風録』(以降『血風録』)は、本の雑誌社が出してくれた『どくヤン!』3巻の物理本バージョンなのです(これ1冊でも読めるように、講談社の3巻からいろいろな変更を加えたりはしている)!

予備知識④本我都怒伊田・京波飯火太先生とは

これは本当に知らない方が多そう(経緯ではなく、この異名を)ですが、この『血風録』刊行に向けて、我々と本の雑誌社を繋いでくださったキーマンがいます。
それが、「本我都怒伊田・京波飯火太(ほんがとどいた・きょうはいいひだ)先生」こと、北原尚彦さんである!

中島かずきさんは「『本が届いた。今日はいい日だ』の方」とまるで「ハムの人=別所哲也」のような表現をしていますが、もちろん北原尚彦さんはその方ではない(その方でもあると言えばあるけれど……)。
あくまでも「本が届いた。今日はいい日だ」とよくツイートする作家。日本を代表するシャーロキアンとしても有名ですね。

そんな北原さんは先述の『どくヤン!』を読んでいる活字クラスタであり、ある回の作画ミスをツイッターのDMでカミムラさんに指摘してくださったことがあって、我々との繋がりがうっすらとありました。
さらに後には、『本の雑誌』2020年11月号に「今こそ『どくヤン!』を読め!」を寄稿してくださったり。

そして、3巻が講談社からは電子版のみの刊行と決まった後、北原さんに本の雑誌社と繋いでいただき、とんとん拍子に『血風録』の刊行が決まったのでありました。
ちなみに、『血風録』には北原さんの解説も収録されています。買ってね読んでね!

(「本が届いた。今日はいい日だ」ほどの認知度ではないかもしれないけど、「買ってね読んでね」も北原ワードのつもりです)

このご縁がなければ、徒手空拳の手探りで本の雑誌社に問い合わせする必要があったところを、サクサクと物理本出版が決まり、本我都怒伊田先生に向かって最敬礼であります。
初めて本の雑誌社の浜本社長と顔合わせしたときも、カミムラさんは出版の可能性を探る話し合いになると思っていたのに、もう出すのは決まっている感じの話から始まり、「驚いた」と後で言っていたことがありましたが、本当にスルスルッと――電子版3巻から変更する内容や描き下ろしの検討など、中身には色々時間を使ったものの――発売までいった気がします。

とはいえ、実は私自身は「本の雑誌社は本当に出してくれるだろうな」と思っていたりもしました。
先述のツイートの話だけでなく、『本の雑誌』2020年11月号の北原さんのコラムの掲載が、かなり無理やりに見えたんですよね。
この号の特集は「出版で大切なことはすべてマンガで学んだ!」で、要するに『重版出来!』などのように、出版社の内側、編集者の仕事が見えるような「業界マンガ」の特集であって、決して「読書マンガ」や「本マンガ」の話ではない。
そこに業界もクソもない、ある意味どファンタジーな『どくヤン!』の話をねじ込んで(?)くださったのを見て、逆に「本当に応援してくれているんだなあ」と痛感したものでした。
なので、その後、2020年の『本の雑誌』年間ベスト7位に選出されたりしたこともあって、普通にいけるのでは……と不遜ながら感じていたのです。

あと、北原さんがカミムラさんに指摘したミスの話などは、下記の鼎談でも取り上げているのでよろしければ。全部読むと2万字以上ありますが……。

『黒と誠』の連載時期が少し早まった話

ようやく本題です。北原さんがカミムラさんのメールアドレスを本の雑誌社・浜本茂社長に伝えてくださり、やり取りが始まったのが2021年1月のこと。
そして3月、『どくヤン!』の打ち合わせを毎回していた日暮里の喫茶店に浜本さんが来訪され、カミムラ・左近・仲と対面。
先程も書いたように、やるのは決定、という感じの力強い話し合いでした。

その後、私のほうから本の雑誌社や印刷所に確認いただきたい点を箇条書きで送り、それらの材料が大体揃って、制作を本格始動させようとなった7月、もう一度対面で打ち合わせをすることになり、今度は私とカミムラさんが神保町に行くことに(左近さんは来られず)。
コロナ禍の中、スペースを確保するためにお話は喫茶店でしましたが、オフィスを見てみたいと、打ち合わせ終わりに本の雑誌社にお邪魔しました。

このとき、というか、神保町で打ち合わせ、となったときから私の頭にあったのが、『本の雑誌』に毎号載っている「今月本の雑誌に遊びに来た人」のコーナーです。
完結後も、エゴサーチをすると、今でも応援してくださる方や、3巻が電子版のみであることを惜しんでくださる方がたまに見つかります。
そんな方々に向けて、「正式なアナウンスはできなくても、いわゆる“匂わせ”くらいはいいのでは」と思い、カミムラさんに出て欲しいなと考えていました。
電子版のみの作品の紙版を他社が出す、ということ自体が相当なレアケースですから、それを見ても「3巻の物理本が本の雑誌社から出るのでは?」とは思わないかもしれませんが、新作読切が載るとか、少なくとも良い想像はできるだろう……と。

で、浜本さんにも相談し、「今月本の雑誌に遊びに来た人」への登場もOKとなり、本の雑誌社にお邪魔させていただいて、カミムラさんの写真も撮影。
無事、2021年9月号の『本の雑誌』の同コーナーに掲載と相成りました。

そして迎えた――大した話ではないが――運命の2021年8月16日。

“『どくヤン!』の3巻”ではなく、書名はスタンドアローンな形にしようと話し合っているところで、浜本さんからのメールが。
内容は、前のメールで面々が出し合った候補にあった、カミムラ案の『読書ヤンキー血風録 どくヤン!』がいい。それで「どくヤン!」をメイン、「読書ヤンキー血風録」をサブにする形でどうか――というものでした。

そして、その後に、こんな続きが。

別件ですが、双葉社の○○くん(※1)という編集者から、カミムラさんに仕事をお願いしたいので連絡先を教えてくれないかという問い合わせがきています。
本の雑誌9月号でカミムラさんの隣に写っている元助っ人です。
ちなみに『社史・本の雑誌』
(※2)を原作にした漫画化を考えているようです。
メールアドレス教えてよろしいでしょうか。

※1:「○○」は仲が伏せ字に。
※2:『社史・本の雑誌』は、「本の雑誌風雲録」(黒)と「本の雑誌血風録」(誠)の合本と、表紙一覧や和田誠・装丁劇場などを収録した「付録」を箱入りセットにした、本の雑誌創刊45周年記念社史。

そう、該『本の雑誌』の該コーナーのカミムラ写真の隣には、担当作『終のひと』(清水俊)を宣伝する、双葉社の漫画編集者・Yさんの写真が掲載されていたのである……!

つまり、カミムラさんの「今月本の雑誌に遊びに来た人」登場と、浜本さんのメールをきっかけに、「『社史・本の雑誌』を原作にした漫画」=『黒と誠』が実現したわけです。

Yさんは元々『どくヤン!』を読んでいて、『社史・本の雑誌』を「漫画化するならカミムラさんがいいのではないか?」と思っていた。
そんな中、『本の雑誌』の自分が載ったコーナーを見たらば、隣にカミムラさんがいて、浜本さんに連絡を取った。

――といったところだったのかな、と予想しています。
(あと、さっき大した話ではない、と書いたけど、他にも漫画家の候補はいたものの、「今月本の雑誌に遊びに来た人」を見て、その偶然に惹かれて連絡した……なんて可能性もあるのかも。それなら本当に“運命”かもしれませんね)

まあ、直接の知り合いではなくても、SNSをやっている漫画家なら簡単にアプローチできるだろうから、『本の雑誌』2021年9月号がなかったとしても、すぐにYさんからカミムラさんに連絡が来ていた可能性はある。
しかし、ほんの少しであっても、匂わせを企んだ私と、Yさんとカミムラさんを繋いだ元ボス・浜本さんがいなければ、『黒と誠』の連載開始はもう少し遅くなっていただろう……。

という『茂と真(シゲとマコト)』なお話でした。

(『血風録』の情報公開が11月15日で、それを見たらYさんは「浜本さんがカミムラさんの連絡先を知っている」と分かるわけで、連載開始を最長で3ヶ月巻いたのかもしれない)

しかし、連載時期がどうこう、みたいな話を抜きにして、かつて本の雑誌社で働いていた編集者が、『本の雑誌』創刊秘話の漫画化を企画し、同社が前代未聞の物理本刊行をしたマンガの作者が描く、という話だけで、とてつもなくロマンのある話ではないか。
Yさんは、ご自身が元『本の雑誌』の助っ人であることを、もっとアピールするべきだと私は思います(笑)!!!