見出し画像

エッセイ299.ららら科学の子(1)

本当の ららら科学の子は鉄腕アトムですが、我が家の夫も機械や正しい情報、データなどが大好きでして、正反対の私からすると、「科学の子」と呼びたくなります。
私が質問するぐらいのことは、知らないことがありません。

最近、移住していった長女から電子ピアノをもらい、マンションは楽器禁止なので、ヘッドフォンをつけて練習しようとしました。電子ピアノのキーボードの下に穴・・イヤフォンジャックというのですか?・・があるのは思い出したのですが、ヘッドフォンの「差し込む部分」は1つ、穴は二つ。そこでもうすでに呆然として、電子ピアノの下に座って考え込みました。で、「どっちかが合っているんだろう」と思って差し込もうとしたら、穴・・ジャック?ジャッキー?の方が全然直径が大きくて、差し込めません。

その晩家に帰ってきた夫を捕まえて訴えると、ふむふむと言って、自室に入ってゴソゴソとし、「ほら」と何かを差し出します。小さな金色の短い棒です。細くて電子ピアノに合わないヘッドフォンの先にそれをつけると、穴にぴたりとはまるようになる道具なのでした。
弾かれなくなって10年の、この電子ピアノのColumbiaは、ピアノ部門が他社へ売られてしまい、その他社もピアノから撤退してしまった、というところまでは検索で知り得たのですが、その先がわからない。これに使えるヘッドフォンはどうしたらいいのと途方にくれていたのが、即、解決しました。
さすがです。
でもなんだって、こんな、見ただけでは何かわからないものを、長年の間取っておいたのでしょうか。私は片付けをしていて、よくわからない鍵やケーブルを、えい、と捨ててしまうのですが、夫にはこの「えい!」がないようです。

かと思うと、メカニズムに拘泥するために、なんとなく本末転倒なときもあります。
例えば、もう28年も使ってきた、タッパーウェア社の「ライス・ストッカー」。隙間にぴたりと収まるスリムさで、レバーを左右に動かすごとに、一合の米がざらざらと下に落ちてきます。
「でも、米を毎日食べる娘たちはもういないし、私たちは1ヶ月に1回ぐらいしかご飯は食べないし、だからこれはもう処分しませんか?」
と言ってみたところ、強く反対されました。
「だって君、米をカップで測らなくても、右へ一回でざー、左へ一回でざー、と、正しい分量のお米が落ちてくるんだよ?」
と言うのです。

「落ちます、それは落ちてきます。でも月に一回、五合の米を出したくて、ざー、ざー、とやる他は、本当に御用がないし、お米がなかなか減らないのに、暑い季節もそこへ、お米をずっと入れっぱなしというのはなんだか抵抗があります。手を使ってはかるのはいつもやっているので、私は大丈夫です。これからは5kgではなくて1、2kgの良いお米を買って、冷蔵した方が美味しいと聞いたこともあるので、冷蔵しませんか」
と押し返しました。

「うーむ」
「うーむ、でしょうけれど、私は炊飯器も処分したいです」
(セラミックのフライパンで炊飯してしまうからです)

「えっ、だって、炊飯器があれば、スイッチ一つでご飯が炊けるではないですか」
「炊けますが、フライパンの方が早くて美味しいです」
「うーむ・・」
「夫は普段は料理はしないので、ライスストッカーと炊飯器を使っていないでしょ。なくなっても困らなくない? 私は困らないし、使わないので、要らないんだけど」
「だって面倒臭いじゃないですか。いちいち、いちご〜う、にご〜う、ってはかって、フライパンに入れて、水もはかって、つききりになるでしょう?」
「月に1回ぐらい測ったり、見張ったりするのは大丈夫よ?」
「うーむ・・・めんどくさいじゃないですか」
「めんどくさいのは、夫じゃないじゃないですか」
押し問答。

・・・これは、話が終わらず、私はある日、マンションの一戸につき一つ与えられている小さい物置の方へ、そーっとライス・ストッカーを移動させてしまいました。
いつ気づくのかな?

ちなみに、私たちはプラスチックで蓋が密閉できる容器を、ついタッパタッパと読んでいますが、タッパと呼んでいいのは、タッパーウェア社だけのものだそうです。夫が子供の頃、タッパーウェアの販売員となった人が、家に多くの奥様を集めて、タッパーウェアーがどんなにいいかを啓蒙しながら、売っていたのだそうです。タッパーウェアー・パーティーというものなのですって。私が「そのタッパの中の唐揚げ食べてもいいよ」というようなことを言う時、毎回じゃないですが、夫はときどき、上記のことを講釈します。それは、
Do you know that actually, tapper wear is the name of a man…
で始まります。
うっき〜! 🙉  となります。

しかもそのおかげで私はずっと、タッパーウェアーじゃないものをタッパと呼ぶとき、ちくりと罪悪感を感じるのです。


サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。