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エッセイ470. 読むだけでエネルギーが奪われるエッセイ: 詰め込み過ぎはよくないという話

ワイヤレスイヤフォンを、ケースごと外出先で失くしたのが1月頃でした。
見つかるとは思わないで諦めて、届けも出さなかったのですが、この朝 郵便局に行ったとき、思い出して訊いてみました。
そうしたら、1月半ばに拾って、届けてくれた親切な人がいたそうです。

郵便局の人は、
「残念ですが、郵便局での保管期間が過ぎたので」
と、次の行き先の地元警察の電話番号を教えてくれました。

家に帰って警察署に電話をしましたら、私の失せ物は、そこから、忘れ物たちの最終漂着地、飯田橋の「警視庁遺失物センター」に身柄を移されていました。
しかも、4月15日までに取りに行かないと、廃棄処分になるそうです。

よし。
待っててねイヤフォン、あなたを夢の島になんかやらない。

Amazonの購買履歴を遡って見てみたら、4年ぐらい前に買って、もう製造中止になった製品でした。「この製品は2020年のいついつにあなたは買っていますよ」ということもちゃんと写真の上にあり、これをプリントアウトしてバッグパックに入れました。

出かけるなら、一度に済ませようと思ってしまいます。
この日は移動距離が長くなったため、東京の交通マップをよく見て、無駄のない動き方をしようと思いました。

まず、最寄駅から一度の乗り換えで日本橋まで行けます。
日本橋の目的地は、丸善日本橋店の眼鏡サロンです。
これは、こちらの系列で購入した眼鏡の、鼻パッドが歪んだのを直してもらうためです。
近所の眼鏡屋さん何軒かに、「うちの商品ではないので、万一壊してしまったらいけないので」と断られていたため、買ったお店に行かないとならないのです。
ちなみに、東京にある丸善眼鏡サロンは、実は名古屋の栄が本店の和光眼鏡さんです。

そこから東西線に乗ると、たったの4駅でイヤフォンの待つ遺失物センター(飯田橋駅)まで行けます。

イヤフォンを受け取ってから、南北線で最終目的地目黒駅まで行きます。
なぜ目黒かというと、この日、夫の職場のあるこの目黒で、夫が一つ契約を結びます。日本語だけで仕事もしている夫ですが、契約するときは私が一緒にいて、わかりにくいところは説明した方がいいかなと思って、行くことにしたのです。

足取り軽く日本橋丸善のB1フロアに踏み込んだところで、ぽさん、というような小さな音がしました。振り向くと、自分の長財布が床に落ちています。

え?
なんで?

バックパックのサイドが全開でした。
口で説明しにくいので写真を載せます。



このバックパックは、サイドとトップのファスナーを閉め忘れても、中身が出ていきにくいようにという親切な意図からか、マグネットで「まるあきにはならないぐらいに」、軽く、本体と蓋がくっついてくれます。
でも私のようなうっかり者には却ってそれが仇となり、ファスナーを閉めたつもりでいて、歩き回っているうちにとか、電車で座った途端に中身が飛び出す、ということを、たまにやっています。この日も、さすがに写真のようにだらーんと細長い部分を垂らしてあるいていたわけではなく、一見サイドが閉まっているように見える程度に、マグネットで上部が本体にくっついていたのでした。それにしても、丸あきではあります。
丸善まで何も落ちないでくれて本当によかったです。
だってバックパックには、実印・シャチハタ印・思い出の高校卒業時にもらった印鑑の入ったポーチ、これから直してもらうつもりの眼鏡、買ったばかりの充電アダプタと充電ケーブル・携帯など、失くして困るものがいっぱいだったのです。

(あ、でも今から遺失物センターに行くんだから、
何か落としていたらそこで届出ができるわね。
ああ良かった!)

と、おかしな喜び方をしてから、自分のうかつさを反省しました。

店の片隅でバックパックの中身を見ると、幸い何も落としていなかったようです。
危ない危ない・・と心で呟きながら、眼鏡サロンに行きます。

「どちらでお買い求めになりました?」

ーー名古屋です。

「本店の方ですか?」

ーーはい。今は丸の内の方の眼鏡サロンさんに登録しなおしています。

鼻パッドは取り替え、ツルの歪みも直し、洗浄までしてくれました。

ーーこれ、いつ買ったかわかりますか?

わかりました。
2020年の誕生日ごろに、プレゼントとして買ってもらったのでした。
コロナも真っ盛りの頃でした。

次に、警視庁遺失物センターに行きました。
東京の人は疲れているのか、電車で座れた人の半分ぐらいが寝ています。
私も寝ましたが、いつも不思議なのですが、目的地に着く寸前に目を覚まします。

遺失物センターには初めて行きましたが、訪れた人が入れる部分である待合室は、一階入ってすぐの小さなスペースだけです。大勢の人が待っているのに妙に静かで、しーんとしています。
そこに座っているみなさんは、届けに来た人もいるかもしれませんが、たぶん大半は、見つかりましたと連絡を受けて東京中のあちこちから受け取りに来た人でしょう。

受け取り窓口では、間断無く、
「何番でお待ちの誰々様」
と呼んでくれますが、その場でわーいわーいと喜んでいる人はいません。
ここで、担当の方が本人と、本人が申請している物の確認を済ませてから、物を渡してくれています。

ちなみに手続きとしては、ここに辿り着いたものはすべて、固有の番号をもらっていて、失くした人たちに知らされます。それを持ってここへ出向き、受付で番号をもらって待ち、順番になると呼ばれます。窓口に行くと、受け取りのためのフォームを渡されます。そこに、品名やブランド名、色などを書きます。Amazonの購入履歴をプリントしてきてよかったです。記入がすんだらまた別に、3人ぐらいが担当している窓口でフォームを渡し、再び座って待っていると、受け取り窓口から呼ばれるという段取りです。

待合室にいる人たちは、失せ物との感動の再会に来たのですが、なぜかみな浮かぬ顔に見えます。銀行や区役所の待合室よりは、一段トーンが落ち着いている感じです。
私もその中の一人となって、大人しく順番を待ちました。
私のイヤフォンもやっと手元に戻ってきました。
次に失くしものをしたら、面倒でも心当たりの地域の警察署にちゃんと届けようと思います。

さて、最終目的地、目黒の駅ビルにやってまいりました。

さすがになんだか疲れて、ベンチに
「あ〜あ・・」
てな感じで座っていましたら、隣に座っていた5歳ぐらいの、めちゃくちゃ可愛い女の子が、なんとなく私を気にしています。
横から見上げたり、目の前を歩いたりするのです。
で、とうとう、私の正面に立って、澄んだ瞳で私を見つめてくるではありませんか。

お嬢ちゃん、お母さんはどこ?
そこの成城石井でお買い物している間、
ここで待ってなさいと言われたの?

彼女の意図を解しかねて、(ナンデショウカ?)と言う感じで曖昧に微笑んでみたら、お嬢ちゃんが床を指さします。

え、なに?
あ、やだ。

私の足元に、イヤフォンが落ちています。
なぜ床に転がっている?

バックパックのサイドのファスナー全開でお財布を落としたのに懲りて、サイドはしっかり閉めていたのですが、今度はトップが開いていて、ベンチに座った時に転がり出たのでしょう。

幼い彼女が、知らないおばさんに話しかけるのは本当に勇気が要ったと思います。

「うわぁ、ありがとう。おばちゃんぼんやりよね。
本当にありがとうね!」

と私が言うのを聞いて、ほっとしたように笑ってくれました。
と、その子のお母さんがお迎えに来て、彼女は可愛くぴょんと飛び出し、お母さんの方へ走っていきました。お母さんと手を繋ぎ、振り返りながら去っていきます。
バイバ〜イ・・・と、手を振りあう女の子と、知らないおばさん。
ママが女の子の方に身を屈めて何やら言い、女の子がママを見上げて何やら言う。
今あったことをお話ししているのでしょうか。
本当にありがとう。
でも恥ずかしかった。

このあと、夫の契約に立ち会って、自分でもよくわからないことを、辞書を引き引き説明し、ぐったり疲れました。
夕食の支度はしてから出ていたのですが、疲れてしまった自分へご褒美をやりたくなり、夫と地元の居酒屋に行きました。

お店はとても空いていたので、マスターと喋り、初めて会ったご夫婦に話しかけられてさらに喋り、この半日で、普通の生活の一週間分ぐらい、知らない人と喋っている感じになりました.

今日の反省は、落とし物はとにかく警察に届けましょう。
それから、ファスナーは全部、とにかく閉めましょう。

かな?

予定を詰め込みすぎると疲れる年頃になっていたこともよくわかりましたので、そういうのもやめようと思ったのでした。

オチも何もなくてすみません。

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