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日本語教師日記172. 「あたしンち」をレッスンで

子供生徒がよく、レッスンの終わったときに、

「先生、アニメを一緒に見たいです」

と言います。

次にすぐレッスンがなければ、一緒に見ることはよくあります。
英語の字幕つきです。
この場合、日本語教材としての意味はなく、一緒に楽しみます。

最近 ある子が、

自分はアニメなら結構理解できるし、
覚えられるような気がします。
なので、レッスンでときどき、アニメを見て、
何を言っているか教えてください。

と言いました。

この子とは、今までにたくさんのアニメを、1分ずつぐらい見てきています。
でも残念ですが、アニメやコミックは、教材にはなりません。

これはアニメが悪いのではなく、日本語の話し言葉が、
普通日本語レッスンで習う形とあまりにも違うからです。

話し言葉には、学習者が初級の文法を一通り終えないと、
なかなか越せない山がたくさんあるわけです。

生徒の希望により、一緒にアニメやドラマを見ることがたまにありますが、
みな、頭を抱えていて、

全然わかりません。
まるで外国語のようです。

と言ったりします。

例)
A:ねえ、行くの行かないの?
B:行きたいけど、簡単には行けないよ。
A:何迷ってるの?
B:迷っちゃいないけど・・

簡単そうに感じられますが、こんな普通の会話にも、

・ます動詞→辞書の形への変化
・「の」をつけるとつけないとの意味の違い
・「たいの形」
・な形容詞の副詞化
・現在進行形

という、初級から一歩一歩学んで覚える文法がたくさん入っています。
実際に、1分でもアニメの会話を聴いたら、これどころではありません。

リクエストにより、見てみたけれども、難しすぎたものは、

SPY✖️Family
夏目友人帳
コタローは一人暮らし
推しの子
古見さんはコミュ障です

など、いろいろありました。

でも、「クレヨンしんちゃん」は、場面によっては使えます。

今回初めてやってみたのは、「新あたしンち」。
これが今までで一番わかりやすかったです。
背景がとてもリアルで、楽しいです。
また、ぼそぼそと喋るみかんとゆずひこの話し方が、いいです。
字幕をつけて、一時停止しながら見れば、
学習歴1年ぐらいの子でも、だいたいわかりました。

さて、非言語的表現=言外のニュアンス というものがあります。
意味がわからなくても、状況からその意が汲めると言う部分です。

それで、一緒にアニメを見ながら、生徒に

「"無理〜"はこの場合、英語ではなんだと思う?」

と訊くと、ぴったりのいい表現を言ってくれたりします。

逆に、こう言っているんだろう、とあたりをつけて言ってみただけ、
ということが結構ありまして、言っていないことを、言ったように思っています。
いや、教えてないから! と、思うことが多いです。

試しに、
「バス来た!」
を訳させてみると
「あそこにあるのは私たちのバスです」(英語)
と言ったりました。

「いえいえ、雰囲気で訳さないで、
一つずつ言葉を見て、文字通り訳してみてください」

と言うと、英語で、

「あのバスに間に合わなければならない」

など、余計大盛りな文なってしまったりします。
習ったことのない難しいことも入ってきます。

「よく聞いてください。
実際に、言っていることをよく聞いて訳しましょうね」

と何度も言いました。

でも、ふと思いました。
(こんなことを言っているのだろうなぁ)と思いながら、
自分でも言ってみたりしていて、間違って、
それを親から直されていったりしながら、形になっていくというのが、
母語の形成なんじゃないだろうかと。

今日は、「あたちンち」を、

最初に普通のスピードで見る。
次にスピードを落として見る。
デクテーションしたものを一緒に、声優になりきって読む。
訳してもらう。
説明を加える。

などとしてみました。

自分一人で見て楽しめるようになるまで、
まだ頑張ってもらわなければなりませんが、
楽しいと言ってくれていますので、
少しずついろいろ見ていきたいと思いました。


今日は、これを一緒に見ました。
ショッピングモールでお買い物。絵がリアルで素敵。


母:あ〜、買った買った〜
みかん:ちょっと〜
母:んん?
みかん:ちょっと〜ゆっくり歩いてよ〜
母:はい、がんばって〜
みかん:もう〜、あたしがついてくると 重いものばっかり買うんだから
母:がんばって〜
みかん:ああもう、ちょっと無理〜
母:はぁ?    あっ、みかん、バスが来たバス! 乗るよ!
みかん:へぇ〜?
母:はやくはやく!
みかん:無理〜
母:無理じゃない、乗るのよ!
みかん:もう無理、次のにしよう。
母:何言ってんの、行くよ!
乗りま〜す!


生徒は、私の解説を聞きながら見ていて、聞いたことがある! とか、そういう意味だったんだ! などと、喜んでいました。

大人の生徒にも試してみようかな。
オンラインの1対1のレッスンならではですね。


教材:



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