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『沖縄まぼろし映画館』のこと

子供の頃、沖縄県の那覇市で育ったのだが、当時、市内の樋川という区域に住んでいて、近所には成人映画館があった。その名を開南琉映という。

ピンク映画を上映しているわけだから、子供にとっては悪所だろう、近寄ってはいけない空気が濃厚に漂っていた。看板に書かれた扇情的な題名を見ることすら抵抗があった。いま考えたら、単なる文字なのにね。でも、ああいうものはどうしても目に入ってくる。ちらっと確認して、すぐに視線をそらす。見ないようにしているのに、なぜか目の端で追っている。といった具合に。

わたしが日活ロマンポルノをきちんと見始めたのは2000年代に入ってからで、もうその頃は日本映画史上の傑作として位置づけられている作品も多かった。だからといって別に熱心に見なくたっていいじゃないねえ。たぶん、幼少期のこういう体験が大きかったのだと思う。

小学生だったから、当然、作品名なんておぼえていない。にもかかわらず「開南琉映で上映されていたのは日活ロマンポルノ三本立て」という刷り込みがあった。だが、あるとき気づいた。開南琉映では、春休みになるとたしか東映まんがまつりを上映していて(無節操だよね)、実際わたしは『風の谷のナウシカ』をこの劇場でみている。ナウシカは、東映まんがまつりの枠内ではないけれど、東映系の配給だった。

あれ? ということは、開南琉映って東映系列の劇場だったの? じゃあ、あのピンク映画三本立ては日活ロマンポルノじゃなかったってこと? 「東映」と「琉映」って字面も似てるしなあ。でも、東映ってそんなにピンク映画を量産していたわけじゃないよねえ……。

こういうどうでもいい疑問は、いったい誰に確認すればいいのか。しかも思いっきりローカルな話だし。そんなときにあらわれたのが、沖縄が誇る出版社・ボーダーインクから刊行された、平良竜次+當間早志『沖縄まぼろし映画館』なのである!
http://www.borderink.com/?p=14451

版元の解説をそのまま引き写すと……

本書はそうした沖縄の映画興行史がよく分かる「通史」から始まる。本編では、映画館の跡地をめぐる旅や現存する映画館の取材、ならびに関係者への聞き取りによって書かれたルポルタージュが50編。当時の様子がわかる貴重な写真も数多く掲載されている。さらにコラムとして、映画史を語るうえで欠くことのできない〈沖縄映画人〉らの逸話も収録した。戦後オキナワの活気、映画人らのドラマティックな活躍、映画館の栄枯盛衰とノスタルジー。「娯楽の殿堂」をめぐる思いがたっぷり詰まった一冊。

……という内容で、おかげさまでわたしの小さな疑問も氷解。冒頭の通史に、開南琉映を経営していたのは琉映貿という配給チェーンで、生き残り策として県内各地の系列館で日活作品を上映していたと書かれている。

そうか、あれはやっぱりロマンポルノ三本立てだったか。
ありがとう『沖縄まぼろし映画館』! すごいぞ『沖縄まぼろし映画館』!

ちなみに、この本によると開南琉映の閉館は1986年。日活がロマンポルノの製作をやめたのは、その2年後、1988年のことである。

開南琉映跡地。2012年9月に撮影。当時の面影はまったく残っていない。



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