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さようなら、新橋文化劇場

 新橋文化劇場が2014年8月31日に閉館する。

 8月9日から15日にかけて上映していたのは『スペース・カウボーイ』(2000年)と『エグゼクティブ・デシジョン』(1996年)。クリント・イーストウッドとスティーブン・セガールの2本立て。

 新橋文化といえばセガールというイメージが強いから、せっかくだし最後のセガールを堪能しようと足を運んだら、あれ? セガール隊長、開幕早々あっさり死亡……(セガールが死ぬ映画は初めてみたかもしれない)。実は『エグゼクティブ・デシジョン』、カート・ラッセルの主演映画だった。これってミステリで言うところの叙述トリックみたいなものなのかなあ(違うと思います)。

 『スペース・カウボーイ』と『エグゼクティブ・デシジョン』を続けて見ると、どうしてこの2本が同時上映なのか、その理由がわかる。どちらもクライマックスは緊急着陸の場面だし、エンディングにはフランク・シナトラの歌声が流れるのだ(前者では“Fly Me to the Moon”、後者では“It's Nice To Go Trav'ling”)。新橋文化の番組編成には、こんなふうにちょっとした遊びが潜んでいて楽しい。

 新橋文化劇場の開館は1957年。当初はニュース映画の専門館だったそうだ。1958年からは洋画中心の「新橋文化劇場」と邦画中心の「新橋第三劇場」が加わり、3館体制で営業していたという。現在の「新橋文化劇場」と「新橋ロマン劇場」の2館体制になったのは1979年から。

 新橋はおじさんの街だから、新橋文化もサラリーマン向けというか、肩の凝らないアクション映画を中心にプログラムを組んでいた。……のだが、数年前に変化が起こる。アクションものやサスペンスものだけでなく、いわゆる名画やカルトムービーが徐々にまぎれこむようになったのだ。この傾向はどんどん加速し、2013年以降は東京でもっともヒップな映画館になってしまった。

8月16日から22日にかけては『ウィズネイルと僕』(1987年)と『マイキー&ニッキー』(1976年)が上映されている。後者は新橋文化の番組編成が変わるきっかけになった作品とのこと。という意味では、8月のラインナップには新橋文化の歴史を圧縮したような印象も受ける。

つまり、セガールやイーストウッドのような安定路線から、方向転換のきっかけとなった『マイキー&ニッキー』を経て、最後の週となる8月23日から31日にかけては、東京唯一のグラインドハウスの終幕を飾るにふさわしい『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)が上映されるというね。

あっ、『デス・プルーフ』の主演はカート・ラッセルだから、ということは『エグゼクティブ・デシジョン』は『デス・プルーフ』の伏線だったのか。同時上映が『タクシードライバー』(1976年)というのも泣ける。この映画、もう長い間見ていないけれども、たしかロバート・デ・ニーロがうらびれたポルノ映画館に入るんだよなあ(おまけに新橋の街並みそのものがニューヨークのようだし)。

うらびれたポルノ映画館といえば、隣の新橋ロマン劇場も、最後の3日間は日替わりで日活ロマンポルノの名作を立て続けに上映するようで、こちらも楽しみです。

●新橋文化・ロマン劇場 公式ホームページ
http://shinbashibunka.com

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