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謎のシマウマ様信仰

バンコク及びその近郊の祠(仏教とは違うバラモン教のものとされるが古来の精霊信仰が混在している)にシマウマ像が奉納されていることを不思議に思う人が多数いる。日本人だけでなくタイ人にも。当然ながらタイに自然生息しているシマウマはおらず、親しみの無い動物だからだ。

だが、タイでは横断歩道のことをทางม้าลาย(ターンマーラーイ。直訳はシマウマ道)と呼ぶ。これは英語のzebra crossingの直訳。ここからシマウマが交通安全の霊獣として信仰を集めるようになった。日本でも「無事帰る」の語呂合わせで「カエル」が交通安全のシンボルになったりするが始まりはその程度のもの。

しかしそれにしてもやけに熱心に信仰されているなと思う人もいるだろうが、一般のタイ人は横断歩道を英語で何と言うかなど知らず、彼等も「あのシマウマ像はなんなのか」と疑問に思っているようだ。

このタイ語文献のタイトルは日本語で「シマウマ様」。神格化されたというより祠の神様への捧げものなのだが、内容をかいつまんで紹介してみたい。

曰く、バンコク隣県ノンタブリーのシマウマ様信仰の始まりは「10輪トラック運転手が横断歩道上の安全を祈願して奉納したこと」に始まるとある。

正確に何年前の話かは不明だが、タイに横断歩道が出来たのは戦後なのでそれ以降の話だろう。発想が「無事カエル」レベルで日本人と似たメンタリティを感じるがタイの交通事故の多さがその信仰の背景にあることも考慮に入れたい。

前述記事ではシマウマ様信仰の起源としてもう一説が紹介されている。それは「あるタイ人妻を持つ西洋人男性がタイ人に何を祠に奉納すればいいのかと訊き、タイ人がマーライ(花輪)だと答えたのをマーラーイ(シマウマ)と勘違いしてシマウマ像を奉納したのでタイ人もそれに倣うようになった」というものだが「面白く尾ひれがついた話」と解説されているほど信頼されていない。もしこれが本当の話ならその西洋人はどこでシマウマ像を手に入れたのか?それ以前にシマウマ様信仰は存在し、シマウマ像はしかるべきところで作られていたと考えるのが自然だろう。

先日バンコクで横断歩道を渡っていた女医がタイ警察デモ制圧部隊所属警官の運転する大型バイクにひき殺されるという事件があり、横断歩道の役割がタイ社会で改めて注目された。前述の件も被害者が高学歴の若い女性だったから注目されたという格差社会を反映するものだが、その対策案が「免許に大型バイク枠を設ける」「大型バイクの交通違反罰金を通常の1000バーツから4000バーツに上げる」など日本人の感覚から見れば今更なものばかり。

もともとタイに「歩行者優先」という概念は無い。交通事故が多いのも無免許運転や酒酔い運転や麻薬使用運転が多いことの反映。

もう3年は訪タイしていないので現地情報は主にタイ語ニュースからという状態だが、「タイ人の意識も変わり(ニューノーマルという言葉はやけに見かける)遵法意識も育った」とも聞かない。別にバンコクの横断歩道(田舎にはほとんど無いはず)を渡るのが世界一危険ということも無い。ただ、交通トラブルで相手から狙撃されたなどの刑事犯罪だけには巻き込まれないように注意していた。タクシー運転手は大抵護身用に持っている。警官もそれが違法なのは知っているが、その程度は黙認というのが現状。

観光客相手の拳銃強盗は殆ど無いが、失業率急上昇中の今、不用心に夜中ぶらついたら狙われても不思議はないかもしれない。タイは人々は温和で親切なのは事実。しかしそれに気をよくしていると事故や犯罪に巻き込まれるのでシマウマ像を祠に奉納しておこう、と無理にまとめておく。

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