Blue Giantの映画化に便乗して始めるジャズの話

私は大学の時にジャズサークルでドラムを担当していたのだが、叩く時に一番意識していたことは聞いているお客が踊りたくなるようにすることであった。何かの動画で、これと同じことをGreg Hutchinsonが言っていたのを見て、とても嬉しく思ったことを覚えている。私がこのことについて意識し始めたのはDuke Ellingtonを聞いてからである。

Dukeの時代のジャズは、スウィングジャズと言われるのだが、そのビートもスウィングと言われる。スウィングという文字通り、八分音符の裏拍を後ろに揺らすビートである(ドラマーはこのビートをwalk the dogと聞こえる様に叩けて、やっと初心者から脱せるのだ)。この揺れが、所謂グルーブというものを生み、踊らせるような音楽の源である。私はDukeの曲を兎に角聞いて、このビートを必死に体に叩き込んだ。

Dukeが教えてくれたのはこれだけではない。スウィングジャズの基本は、掛け合いであるということもだ。何を漫才みたいなことと呆れられそうだが、本当にそうなのである。例えば、Take the A Trainという曲。こちらは耳馴染みの方も多いだろうが、Billy Strayhorn作曲のDuke楽団十八番の曲である。この曲を聞けば実感頂けるだろうが、サックスとブラスが掛け合いをするが如く、曲が進んでいく。少しでも間延びしてしまうと、曲が台無しになる、それほど練り込まれた曲である。

そして、私がスウィング時代のミュージシャンの中でも、特段Dukeが好きな理由は、曲名と曲が一致しているという点である。また意味が分からないことを言っていると思われるだろうが、彼は歌詞が無くても曲名を表現する領域に至っているのだ。例えばIn a Sentimental Moodなんかは感傷的な感じがあるし、Sophisticated Ladyはエレガントな感じだ。ただ、一番凄いのはCaravanである。この曲は色々なミュージシャンが弾いている曲だが、あの速い演奏はまるで日産キャラバンが高速を走っている感じで、曲名のイメージからかけ離れている。しかし、私が聞いた何かのライブで聞いた彼の演奏は、トロンボーン一本の物寂しげな感じで、アラビックな音階が際立ち(何がアラビアなのか分からないが)、スローテンポで演奏される。これを聞いたときに私の目の前には、広大な夜の砂漠に、ラクダに乗ってゆっくり進んで行く隊商の姿が広がったのである。

ジャズって難しいと言われることがあるが、私は全くそう思わない。ただ身を任せて聞けばきっと踊りだしたくなるのではないだろうか。

最後までご覧いただきありがとうございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?