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ロングスロー考

U-18界隈で話題のロングスローについて、ユベントス…というよりマッケニーを通じて考えてみようと思います。

ロングスローの特徴

ロングスローの特徴は以下の通り。

①長距離を飛ばせるスローワーが必要。
②試行回数が多い。
③ゴール前に届くボールのスピードが遅い。
④オフサイドが適用されない。

①当然のことだが、ロングスローを取り入れるためには、スローインでゴール前まで飛ばせる選手がいなければならない。かつてはボールを持ったまま前転して勢いをつけてロングスローを行っていたデラップという選手がいた。ただし、彼の投げ方は例外的だし、フットボール専用スタジアムが増えている現在ではそもそもスローインのために大きな助走をつけることはできなくなっている。タッチラインすぐ外に広告用の電光掲示板が設置されている。ほとんど助走をつけなくても、相手のゴール前までスローインでボールを届けなければならない。そんな選手はほとんどいないため、ヨーロッパではロングスローはあまりみられない。ただし、日本では未だフットボール専用スタジアムは少なく、高校レベルでは試合に陸上競技場を利用しているケースも多い。そのため、助走を十分にとることができ、ロングスローを取り入れるチームも増えているようだ。

②要はスローインなので敵陣深くのタッチラインに相手がボールを出せばロングスローをすることができる。敵陣のサイド深くへ人とボールを送り込めば、相手DFがタッチラインへと逃げるケースも増えてくる。サイドからの攻撃を仕掛ければ、スローインの回数は増える。ロングスローからゴールを狙う機会も増えてくる。

③1番の特徴はコレだろう。ボールを両手で頭の上を通して投げなければならないため、ボールのスピードはキックによるクロスボールに比べて遅くなる。スピードが遅いため競り合うためにジャンプするタイミングが異なってくるため、対応が難しいのかもしれない。何より、クリアするボールが遅いため、クロスボールのクリアに比べてクリアの距離が出ない。セカンドボールがペナルティエリア付近に落ち、攻撃側からするとゴール付近でシュートチャンスに繋げる可能性が広がる。

④意外と忘れられがちなのがコレだ。その他のセットプレーとは明確にルールが違う。うまくいっているかどうかは置いておいて、ユベントスはどうもこのルールを利用しようとしているフシがある。

ロングスローの本質

セリエAでは、ユベントスがマッケニーというロングスロワーを擁してロングスローを意図的に取り入れている。ただ、マッケニーが主に右サイドを担当しているため、ロングスローは右サイドからに限定されている。それにもかかわらずらナポリをロングスローからの流れで取った得点で破り、ローマ相手にもロングスローからあわやゴールというシュートをコスティッチが撃っている。現状、ロングスローはセリエAの舞台でも有効なプレーと言えるだろう。

ローマ戦のユベントスのロングスローには明確な意図があった。マッケニーがロングスローを入れる際、ガッティはニアサイドのゴールエリアの角付近に立っていた。そして、ブラホビッチとラビオはニアサイドのゴールライン付近に立っており、ユルディズとコスティッチがファーサイドで待ち構えていた。ロングスローを狙う際にはこのポジショニングを繰り返しており、デザインされたものであることは間違いない。面白いのはラビオとブラホビッチのポジショニングで、スローインにオフサイドはないことを利用したものと考えられる。2人を放置していれば、マッケニーはラビオとブラホビッチを狙ってスローインを入れ、ヘディングでゴール前に折り返すことを意図しているのだろうと思う。そうすると、守備側はボールを目で追うため、ゴール前から一度目線を切らなければならない。その間にガッティ、ユルディズ、コスティッチあたりがゴール前に飛び込んでくる。ラビオとブラホビッチはゴール前の状況を確認しながらボールを待てるため、フリーになっている選手を選んで折り返せる。決定機に繋がる確率は高いだろう。結局、ローマがラビオとブラホビッチにマークをつけていたため2人を狙ってロングスローをすることはなかった。しかし、ローマがラビオとブラホビッチにマークをつけたことでローマのペナルティエリア内での守備の密度が薄くなり、結果としてペナルティエリアでスペースが生まれていた。コーナーキックやフリーキックに対する守備のポジショニングとは明らかに違っている。これこそがユベントスの狙いである。そこにガッティやブレーメルといったフィジカル強者を送り込む。ロングスローのボールを競り合って、難しい体勢の相手にクリアさせればボールにスピードがない分、セカンドボールがペナルティエリア付近に落ちる確率は高くなる。相手守備が分散していれば、セカンドボールを拾える確率も上がる。ペナルティエリア付近でセカンドボールを拾うことができれば、それはビッグチャンスに繋がる。ローマ戦のコスティッチのシュートはその典型だし、ナポリ戦のガッティのゴールもロングスローのセカンドボールを拾ってカンビアーゾが上げたクロスをロングスローだからこそ上がっていたガッティが仕留めたものだ。ユベントスはマッケニーによるロングスローという新たなセットプレーを構築しようとしているように見える。

つまり、ロングスローはオフサイドがないセットプレーなのだ。角度があるところから投げ込めるためにゴールに向かうボールを送り込むことができる点でコーナーキックとはボールの軌道が異なる。さらに、オフサイドがないことから、右サイドからのフリーキックとは違う守備対応を相手に強いることができる。具体的には、守備ラインを浅くして攻撃側のポジショニングを制限して密集を作り出すことができない。その上、ボールが山なりの軌道を描くため、ヘディングでクリアしても遠くまで飛ばすことができない。これらをうまく利用して、ユベントスは右サイドからのスローインをセットプレーのチャンスへと変えてしまっている。右サイド深い位置でスローインを取り、マッケニーが電光掲示板まで下がれば少しワクワクしてしまう。

守備側もセットプレーだと認識して、ペナルティエリア内に人数を確保してゴールを守るための守備をすることが必要だ。その上で、とにかく強く競り合うことだ。ロングスローに対しても、セカンドボールに対しても、素早く強く競り合う。ローマはユベントスのロングスローに対してフィールドプレーヤー全員を下がらせて守ってきた。ペナルティエリア内でガッティと競り合っていたのはルカクだった。それでもコスティッチに決定機を作られてしまうのだから、甘くみてはいけない。むしろ、フリーキック・コーナーキックと同じくらいにスコアが動いてもおかしくないプレーだと認識を改める必要があるのかもしれない。

ゴールキックもルール改正によってデザインされたプレーが次々と編み出されている。スローインに関しては、選手のフィジカルの強化が変化のきっかけなのかもしれない。マッケニーのようにほとんど助走しなくてもゴールエリア付近までスローインを飛ばせる選手がいれば、狙う価値はあるだろう。今後、ユベントス以外にロングスローを取り入れるチームが出てくるのかは興味深いところだ。

弱点は、マッケニーがいなければ成立しないこと。ウェアやカンビアーゾではゴールエリアまで届かないだろう。ここまでマッケニーのロングスローは結構なチャンスを作り出している。ロングスロー以外でもピッチを縦横無尽に駆け回り、チームのダイナモとして大活躍している。一昨シーズンのような大怪我だけは避けてもらいたい。

日本におけるロングスロー

さて、高校サッカー選手権の時期が来ると話題に上がるロングスローについての私見を書いておく。まず、長い距離の助走がつけやすいスタジアムが多いことから、ロングスローがやりやすい環境にある。そして、高校サッカーにおいては、選手を集めることができる学校に優秀な選手が集まる傾向がある。その上でフィジカルトレーニングの設備が完備されている学校もあれば、そうでない学校もあり、選手のフィジカルの強さに大きな差がある。CBでも180cmに届かない選手はたくさんいる。そこに190cm近い屈強な選手をペナルティエリアに送り込み、ロングスローで狙って競り合えばほとんど勝ててしまうだろう。ロングスローの場合ほとんどが山なりのボールなので、純粋な高さ勝負になる。そのため、フィジカルで優位な選手、チームがチャンスを作り出すことができる。ロングスローを入れるにもフィジカルが必要。ロングスローの競り合いもフィジカル勝負。つまり、ロングスローはサッカーのあらゆるプレーの中でも特にフィジカルに特化したプレーなのだ。U-18というフィジカルの成長度合いにまだ差がある年代において勝ちにこだわるなら、フィジカルで優位に立つチームはロングスローを取り入れた方が勝ちやすいと思われる。

ただし、プロのレベルになるとフィジカルトレーニングの設備にそこまで大きな差はないし、そもそも選手も成長期を過ぎているためフィジカル面で圧倒的な差は生まれない。ロングスローでCBなどフィジカルに長けた選手を前線に上げてフィジカル勝負に持ち込んでも勝算は五分五分となる。むしろ守備の選手を上げたことで被カウンターのリスクは跳ね上がり、期待値はマイナスに傾くだろう。だからプロレベルではロングスローはほとんど選択されていないのではないだろうか。

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