藝大受験の話 出会い

藝大の存在を知ったのは、地元の中学校に進学し、美術部に入部した時のことだった。

当時、絵が上手な男の子として有名だった僕は、当然の流れのように美術部に即入部届を出した。

その時の部長だったあっぺ先輩(多分ありさという名前だったと思う)という人が僕にこう声をかけた。

『浜梨くんは絵が上手だね!東京藝大目指しなよ!』


それが僕の人生に初めて彼の地が現れた瞬間だった。

家に帰ってすぐにパソコンで調べて、とんでもない倍率で、変人がたくさんいること、音楽学部には附属高校がある事を知った。美術には附属高校が無く、音楽やってる人達がちょっと羨ましいなと思った。

ちなみにあっぺ先輩は東京藝大を目指してると言っていたが、

『私はピアノ行くからね!浜梨くんは油画行きなよ!』

とのことだった。

…一応もう一度言っておくが、この人は美術部の部長である。

どこの美術部も大概そうだと思うが、美術部で真面目に絵を描いている部員はごく少数で、運動部が汗水垂らしてランニングしている傍、顧問や外部の目の届かない美術室でこそこそお菓子を食べながらしょうもない落書きをしてガールズトークに花を咲かせるのが美術部の活動実態だ。

優しい良い先輩ではあったが、あっぺ先輩が真面目に絵を描いていた場面は少なくとも僕の記憶にはない。

閑話休題。確かに僕はもっと絵が上手くなりたいという願望はあったものの、その日から東京藝大に合格する事が自分の最大の目標となったかと言えば実はそうでもなく、中学卒業後の進路で選んだ美術系高校の中で初めて明確に意識していくことになるのだった。


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