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読まなくたって“読める”、だから楽しめる。「『罪と罰』を読まない」を読む

今年読んだ本の中で、行動につながった一冊を挙げるなら、「『罪と罰』を読まない」ですね。書名に惹かれ、前知識もないまま読んだら、これが面白かった。
『罪と罰』という字面から匂い立つ“ザ・古典文学”なカタさ。それを吹き飛ばすほど軽い口調の著者4名による座談会。笑い、うなずき、そして感心。
読まずに読む面白さを知り、そこから行動に移した一連の話を書きます。


「『罪と罰』を読まない」とは

「『罪と罰』を読まない」は文藝春秋から2015年に発行された、岸本佐知子さん、三浦しをんさん、吉田篤弘さん、吉田浩美さんの4人による本です。

作家や翻訳家など、仕事として本に関わる4人なのに、『罪と罰』は読んだことがなかったことから、“前代未聞の「読まずに読む」読書会”を開催。この本は、その模様が収められています。

構成は大きく2つに分けられます。読まずに中身を推理していく前半と、それを踏まえて読んだ後の解答編的な後半です。

まさかの動機とその行動

まず、そもそも著者の4人が『罪と罰』を読んでいなかったことに驚かされませんか? 三浦しをんさんは直木賞作家ですし、勝手ながら意外でした。

そして開かれる、“前代未聞の「読まずに読む」読書会”。
中身を読まずに、中身を推理なんてできるだろうか? ましてや『罪と罰』……。私にとって『罪と罰』は手元に置き続け、読むたびに心を掴まれる大事な本の一つです。だからこそ思うのは、一般的なイメージ通り(?)に、やっぱり長いし重いんです。
6部構成の約1000ページ(新潮文庫の場合)で、人を殺した主人公の罪の意識がかなりのボリュームを占める。敬遠する人も少なくないと思われます。

読まずして、どのように話し合うのだろう……。その疑わしさに、逆に期待をあおられました。

座談会を盛り上げるルール設定の妙

このムリをいかに乗り越えるために4人は絶妙なルールを設けていきます。

・最初と最後の1ページは読む。
・各部3回までは1ページを指定して読める。

いわば、アイテムを拾いながら“ゲーム”のように進めていく構成です。
ほんの少しのアイテム=ヒントが、『罪と罰』の本筋から、大きく脱線することを防いでいきます。実際、どうにか最後まで話は進んでいきます。

面目丸つぶれな自由さ

しかし、面白いのはやっぱり脱線なんです。スイカ割りを傍目で「違う違う!そっちじゃない!」と見るような。
例えば、この座談会の最初の言葉を引用します。

「これ、最初と最後を読んだだけでも面白くて、主人公が超ニート野郎なんですよ。すごく貧乏で、現代に通じる感じの男なの」

いかに自由に話しているかが分かるのではないでしょうか。
4人にかかったら、著者のドストエフスキーも形無し。
「言いづらくない? ドスト、で良くない?」
と言って、以降は、ドスト、ドスト。
笑ってしまいました。名作の面目丸つぶれ。その自由さが面白かった。

作家たちの力

さらに、4人の読み解く力が面白い。

前半の推理篇では間違った推理もたくさんあります。でも、推理の過程には、作家ならではの視点があったりします。
例えば、全1000ページで殺人が起こるストーリーなら、1人目はこのあたりで、2人目はこのあたりだと、うまく進むとか。

また、解決篇までに、4人が、付箋を貼ったり、ノートを書いたりしながら読んできます。そのメモには、土地の情報を箇条書きにしていたり、人物の性格を書いていたり。
プロはこうやって読むのだなという参考にもなります。

最終的には解決篇で、『罪と罰』のあらすじは明かされますので、読んだことがある人もない人も、『罪と罰』の新たな一面が垣間見られるような一冊になっていると思います。

感心から企画した“「読まずに読む」読書会”

この本を読み、私は考えました。
「これはきっと他の本でも出来るのでは?」

とてもゲーム的で、ルールはシンプル。それでいて、中身をなんとなく知ることができる。しかも、実は普通に読むよりも、推理という作業は能動的。採り上げる本について、少なくとも興味を持ってもらえそう。

そこで、私が選んでみた課題図書が『七つの習慣』でした。
「うそッ?!」と思ってくれたら、しめしめです(笑)
ビジネスでも役立つ名著。けれど、やはり長く重い(約500ページ……)。敬遠している人は多いだろう。ためしにまわりに聞いてみると、「知ってるけれど、読んだことはない」人が多数。
おもしろがってくれた数人といっしょに「『七つの習慣』読んでもないのに読書会」を開きました。具体的な模様は別に書かせてもらったので、そちらをご覧ください。
ここでは、感想を挙げてみます。

「目次が頭の中に入り、気になる章とかも出てきた。ちゃんと読みたいなっていう気持ちが、今すごく湧いています。」
「もちろん、ちゃんと読むやり方もありますけれど、この、間(あいだ)を想像していく読み方も、面白かったです。」

ある意味、当然なのですが、ビジネス書の目次は著者と編集者とが、非常に頭をひねって作り込んでいます。ですから、目次をしっかり読むだけで実は中身が分かってくる。
もちろん、そこまできたら、ちゃんと本を読みたいなとも思うでしょうし、読む際にもまっさらな状態ではない分だけ、きっと楽しめると思います。

読書って楽しい、本の間口を広げたい

「読まずに読む」読書会は、きっと他の本でもできると思っています。
読書は楽しいからするものであって、誰かから課題のように渡されるものではない。でも、『罪と罰』や『七つの習慣』といった“名著”は、妙にハードルが上がり、課題図書のようになってしまいがちです。
ですから、もっと軽い気持ちで読書の世界に入れるようにするというのも、本の間口を広げるには良いのだと思います。

読書への、ちょっとちがうアプローチを教えてくれて、行動に移させてくれた「『罪と罰』を読まない」。
本も“「読まずに読む」読書会”もお勧めです。ちょっとでも興味を持っていただいたなら、まずは「『罪と罰』を読まない」を“読まずに読む”というのも一つかも。

あなたなら、読まない? 読む?


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