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からっぽで詩をつくる

これは「死なない杯2020」に参加する記事です。
杯のテーマは「自分で自分の生活を作る」です。

生活。生活……。
生活を飲み込むにはパーティーで割る必要がある。でもそんな連夜に物理的なパーリナイを繰り広げるわけにはいきません。いまってほら、気軽には集まれないし、お金は有限だし、近所迷惑になるかもだから。
パーティーというと仲間たちでの会合のことだけど、ここはひとつ生活じゃないものがパーティーだとします。よって詩はパーティーです。詩をつくることはパーティーです。
詩の一形態に定型詩があります。日本語のものでいうと川柳や俳句、そして短歌。ここでおすすめするのは、短歌で、折句をつくることです。
短歌というと57577のやつです(季語は要りません)。
折句というのは短歌であいうえお作文するやつです。教科書に「かきつばた」の折句を見たことのあるひとは多いはずです。ああいう、57577の頭をつなげると、言葉が浮き上がるやつです。
やってみましょう!

では、「死なない杯」なので「しなないはい」で行きます。
短歌は57577なのでほんとうは5音だとすっきりそれぞれの頭に持っていけるんですが、「しなないはい」を5個に分解して頭にならべることにします。「しな/な/い/は/い」から「し/な/な/い/はい」まで、どれがいいかな。ここは「し/なな/い/は/い」で行くことにします。

まず頭の文字を並べます(私はマジにこうやってひらがなで作ってます)。

し  ・・・・
なな ・・・・・
い  ・・・・
は  ・・・・・・
い  ・・・・・・・

※「・」は残りの音の数だけあります

そしてまず「これは入れたいな」みたいなのがあればそれを軸にして広げていきます。「なな」があるので「7」入れたいですね。辞書で「七」で始まる単語見て、「七瀬:七つの瀬。また、多くの瀬。」いいやんけ。

し  ・・・・
なな せをわたり
い  ・・・・
は  ・・・・・・
い  ・・・・・・

誰が渡るのか、いつ渡るのか、渡ってどうするのかとかを前後にいれたらいいかな。

し  ろいゆめに
なな せをわたり
い  く・・・
は  ・・・・・・
い  ・・・・・・

白い夢が出てきました。短歌は57577と言っていますが、これは最初の5の部分が6になった。でもオーケー。こういうはみ出すのを字余りと言います。

し  ろいゆめに
なな せをわたり
い  く・・・
は  つなつのよる
い  ・・・・・・

先にどこに行くのか「は」から始まる言葉を考えて置きました。夢の話にしたから時間に行くのもいいよねってかんじ。あとは流れで埋めます。

し  ろいゆめに
なな せをわたり
い  くはるか
は  つなつのよる
い  ちどきりの

最後の7の部分が6になったけどオーケー。こういう足りないのは字足らずと言います。でも発音するとたぶん「いちどっきり」みたいになるからあんまり足らなくないかもしれない。

白い夢に七瀬を渡り行くはるか初夏の夜 いちどきりの

はい、こういうかんじでした。

別の作りかたも行きましょう。つぎは「し/な/な/い/はい」で行きます。この作りかたでは、まずそれぞれの音で始まる単語をいろいろ並べます。

」静か/視界/シードル/しかし/知る/失敗
」仲間/なぜ/名前/夏/なら/泣く/納豆/ナツメグ
   何度/鳴る/(遭)難/なつく/(室)内/南西
」一番/痛み生きる/いつも/いっぱい/意外
はい」廃墟/(勝)敗/入る/這いずる/徘徊/配下

つなげられそうなやつを選びます。名詞だけとか動詞だけとかにならないほうがあとが楽。

「し」…失敗
「な」…なつく
「な」…名前
「い」…いつか
「はい」…配下

残りの音の数を確認する。

し  っぱい・
な  つく・・・
な  まえ・・
い  つか・・・・
はい か・・・・

それで、残りを埋めます。

し  っぱいだ
な  つかれてあだ
な  をあたえ
い  つかあなたを
はい かとしよう

「名前」が「(あだ)名」になるハプニングがありましたが、そういうこともあります。
あと、こういうかんじで部分(句)と部分(句)にまたがって言葉が横たわることを「句またがり」と言います。音できくとだいたいみんな「熊たがり」と勘違いします。かわいいですね、熊たがり。

失敗だ なつかれてあだ名を与えいつかあなたを配下としよう

折句はこういうかんじで、パズルを組み立てるように短歌が作れます。辞書があると便利、スマホの予測変換とも相性がいいかもしれない。言葉遊びが好きだ!というひとにも、作りたいけど とくにえがきたいものはないんだ!というひとにもおすすめです。内容は自由で、嘘でも嘘じゃなくても、どちらでもなくたっていい。わたしはずるいので、ほんとうのことを折句で言って、「さあ言葉遊びだよ」と言う顔をするのが好きだ(この性質についてそれってどうなのとおもっているところもあるけど)。あと、「これが折句だとはおもわなかった」て反応を得るのも好き。マジシャンみたいな気分だよね。
あと、私は好きになったコンテンツの登場人物名とかで折句を作るタイプのオタクです。

しばりは多いほど作りやすいので、私のローカルルールとか、気にしていることも記します。

●折りこむ言葉をそのままは使わない
たとえば「し・な・な・い・はい」でやるとき、「し」のところに「死」、2つ目の「な」のところに「無い」、「はい」のところに「杯」は使いません。

●「ちゃ」とか「じょ」とかはひとかたまりでカウントする
「ち」で始まる言葉を探してるときに「兆候」とかおもうんですけど、でも短歌は文字だけど音の話でもあるから「ちょうこう」の頭は「ちょ」なんだよな〜って避けます。

●折りこむ言葉をないがしろにしない
例を出すと、花の名前を使うとき、他の花の名前を歌に登場させることはしないです。「ゆすらうめ」で作るときに「ゆり」とか「ラナンキュラス」とか入れない。なんか失礼じゃん……ってなるから。

●作られた意味の責任を言葉遊びに負わせない
パズルを組み立ててつくるので、そうだね、もしかしたら歌のなかにすごい差別を言っちゃうかもしれない。「差別的な内容の歌を作る」ことの是非はここではひとまず置かせてください。けど、それを「だって折句でこの音が頭の言葉を探してたらたまたまこうなったんだもん」とか言わないようにすること。
言葉遊び楽しいけど、言葉遊びをする者には、遊んだ言葉が持ってしまった意味の倫理の責任を遊びにまかせた瞬間に落ちる地獄があるのだ。

●短歌ってなんか、こう、でかい背景があるってちょっと意識する
どういうスタンスで短歌をしていくかはもう個々人によるとおもうのだけど、短歌には「歌会始」とかあって、まあ「その年に初めてやる歌会」でもあるんだけど、いま言ってるのは宮中の行事のこと。それだけじゃなくって、天皇(天皇制)との結びつきがあって、意識するとかしないとか関係なく「ある」とおもってて、まだどうすればいいか私にはわからないんだけど、とりあえず「く……ある……」ておもっています。

●じぶんの癖につられない
折句は頭の音を決めていくのでその言葉はいろいろ使えるんだけど、わりとそれ以外が同じになったり、いっぱい並べて見たら「全部2句切れ(57577の最初の57でいちど文章が切れてるやつ)じゃん」とかになったりする。まあそれも気にしなくてもいいんだけど、私は折句に関してはもっと機械になりたいのでもっとランダムでいたいです。

他は企業秘密です。
さいごに例として曜日で作った7首を置いておくね(ちょうど画像があってかわいいから)。火曜日から作り始めたので火曜→月になってます。これ最初ふたつが初句切れ(57577の最初の5でいちど文章が切れてるやつ)のだぶりだね……。まあいいや。

かまわない 夜の向こうに海がありビーズは落ちてかえらなくても

好きだった いつか失うような手を失うまでの天鵞絨の日々

もうきみは苦しまないよ(予言だよ)海までの道にビー玉を拾う

緞帳が(ようこそ)あがる(うつくしい)微笑を浮かべ(夜へ)あなたは

肉と骨、血とはらわたと弱いうそ 薄い硝子の瓶に預けて

劇場に月がまわるよ(よみがえれ、歌)えいえんのビジョンはここに


(2018年11月6日〜12日)

画像1

ではみなさん、ハッピー折句ライフを。よいパーティーを。
楽しいだけの日々がありますように。