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これがモダンサッカー~エル・クラシコと5レーン~

 最近、愛読している本がある。footballistaさんが発売している『モダンサッカーの教科書』という本だ。

 海外で流行している、サッカーに纏わる新たな単語とその解説が300ページにわたって凝縮されている。学生という本分があるため、読む時間が通学のタイミングしかないうえに分からない所は何度も読み返している。そのため、まだ半分しか読めていないのだが、この時点でもすごく面白い。

 この本を読み、大体の絵を頭の中に描いた状態でバルセロナとレアル・マドリードの「エル・クラシコ」を視聴した。筆者は海外サッカーにあまり目を通さないが、我らがバンディエラ中村憲剛が解説してるとなると見るしか無かった。そして、そこで大きな衝撃を受けることとなる。
 本に書いてあった理論や事象が次々に起こり、それが得点へと繋がる。その面白さに感動を覚えたレベルだ。中村憲剛という素晴らしい解説者の助けもあり、自分の頭の中で整理が助長され試合の流れに付いていけている自分がいたのだ。
 そこで、この「モダンサッカーの面白さ」を書かずにはいられないと思い、今回の記事を書くことを決意した。

 これからお伝えするのは、モダンサッカーの言葉で用いられる「5レーン」と「数的優位」の話しだ。これと今回のエル・クラシコは密接な関係を見せた。それについて解説をしていきたいと思う。

5レーンとは何か?

 最近流行している「5レーン」という言葉。まずは、この説明をしなければ始まらない。

 5レーンとは、このようにピッチを縦に5分割した際にできる道のことだ。真ん中を「センターライン」とし、大外が「アウトサイドレーン」と呼ばれる。その間が「ハーフスペース」だ。今回は、この「ハーフスペース」と「アウトサイドレーン」が肝になるので覚えていて欲しい。

数的優位の形

 5レーンの構造で欠かせないのは、「数的優位」を作り出すことだ。

 4バックの場合、選手間を均一な距離で保たなければいけない。つまり、均等に引いている線の上に立つことになるのだ。そうなると、5レーンの全てに選手が1人ずつ入ったとき、相手DFの間に入る構図になる。「ハーフスペース」入られれば、CBとSBのどちらが行くかで迷いが生じる。そのため、「ハーフスペース」はモダンサッカーでの「急所」となるのだ。
 そして、この時点で「5VS4」が生まれ数的優位となる。これは、ポジショナルプレーと深く関わりがあるのだが、今回は割愛させてもらう。

バルセロナとレアル・マドリードのスターティングメンバー

 お互い4-3-3のミラーゲームとなった。バルセロナはエースであるメッシが負傷離脱。本来なら一旦メッシにボールを預けるのだが、今回はそうはいかない。だが、絞り所を見つけさせなかったのが吉と出たのかもしれない。
 対するレアルは、右サイドバックをCBが本職のナチョにした。今思えば、カルバハルの不在が大きなダメージになっていたと考える。

攻略した左のアウトサイドレーン

 まず、バルセロナの先制点を振り返っていこう。今までなら、大きくサイドへと突っ張るはずのコウチーニョとラフィーニャの両WGが内側(5レーンで言うハーフスペース)に入っていくシーンが多かった。レアルはDF時の布陣も4-3-3で守っていた。そのため、センターラインの真ん中に位置しているカゼミロの両脇が空いていたのだ。「ハーフスペース」を攻略すれば、相手DFは迷いが生じる。それを阻止するためにレアルの右SBを務めたナチョは「ハーフスペース」を埋めるため、内側へと入ってきた。

 ナチョが「ハーフスペース」に入ることで、左の「アウトサイドレーン」が大きく空く。これがバルセロナの狙いだったのだ。1点目はラキティッチの高いキックの精度から左サイドへと展開、アルバはスピードに乗った状態でフリーでボールを受けることに成功。既に加速しているアルバをナチョは止めることができず、クロスをあげられ失点をした。
 このような形で、バルセロナは左サイドを完全攻略。複数回この形でチャンスを作り出した。2点目はPKだったものの、アルバの左サイドから生まれたものだ。前半は、バルサが思うように試合を動かし完璧な試合運びを見せていた。

5VS4の数的優位を作り出したレアル

 前半は何もさせてもらえなかったレアル。後半開始と共に、ヴァランを下げてFW登録のルーカス・バスケス(17番)を投入。これが大きなポイントとなる。

 後半の布陣を見ると、カゼミロ(14番)がCBにまで下がりスリーバックの形となった。インテリオールにいたクロースがアンカーの位置まで下がり、バスケスは右のWBに入った。システムは3-1-4-2の形。自分のクビまで後が無いレアルの指揮官ロペテギは、このような手を打ってきた。この日解説に入っていた、水沼さんの言葉を借りれば、この形は「ギャンブル」だった。そして、この布陣がバルセロナを苦しめこととなる。
 それが顕著に出ていたのが、レアルが1点返したシーンであった。

 左サイドで起点を作り右サイドへとボールを運ぶ。ベイルとのパス交換からベンゼマがボールを受けると、レアルから見た右サイドでは2対1の状況が作られていた。アルバは、イスコに視線を向けるが、ベンゼマが選択したのは「アウトサイドレーン」にいたバスケスだった。

 当然、アルバはバスケスに付いていく。そうでもしないとフリーでクロスを上げられてしまうからだ。しかし、DFのスライドが追いついていなかった。そして、イスコは、アルバの裏のスペースへと走り出す。これにより後手を踏む形となったバルセロナは失点を許した。DFライン4枚の間にレアルの選手が入ってくる。最初に説明した「5VS4」の数的優位から生まれたゴールだったのだ。

 このほかにも、レアルの右サイド攻略は続く。それが68分のシーンだ。

 カゼミロから、「ハーフスペース」に位置するイスコにボールが渡った際(1の動き)に左SBのアルバが対応にいかなければならなかった(2の動き)。そこで奪い切れれば良かったのだが、テクニックと強さを持つイスコは粘り勝ち、「アウトサイドレーン」でフリーになっていたバスケスにパスを通す。これだけで状況は大きく変わり、レアルがチャンスを作った。最後は、バスケスのクロスをベンゼマが頭で合わせるが枠には飛ばず。今思えば、このシーンと56分にあったモドリッチがポストに当てたシュートのどちらかで仕留めていれば、状況は大きく変わっていたかもしれない。

損なった後ろのリスクマネジメント

 結果的にはバルセロナに軍配が上がったこのゲーム。試合を決めたバルセロナの3点目は見事だった。首の力だけで持って行ったスアレスの異次元なヘディングシュートにも目が行くが、その前のマークの剥がし方とレアルが損なったリスクマネジメントが勝負を分けた。

 ラキティッチのボールキープ(1の動き)からアルバのワンタッチパス(2の動き)で途中出場のデンベレ(11番)へと繋ぐ。デンベレが前を向いた瞬間には3対3の状況になっていた。レアルは当然下がりながらの守備となるため、後手を踏む形だ。
 本来のレアルの目的は、相手陣地でのハーフコートサッカーだった。バルセロナの守備陣形は4-4-2の形。バスケスとマルセロの両WBを幅広く使えば、1点返したシーンのように「5VS4」の数的優位を作り続けられた。もちろんハーフコートで展開するためには、相手陣地内で奪い返すしか無い。そのためボールホルダーに対して奇襲をかけた。しかし、アルバのワンタッチで全ての守備網を突破。ファイナルサードへと侵入を許す形となったのだ。

 4失点目もバルセロナのロングボールに対して3対3の状況が生まれていた。確かに、セルヒオ・ラモスのボールロストから生まれたが、後ろのリスクマネジメントさえしてれば、あのような展開にはならなかった。ロペテギが行なったギャンブルは「ハーフコートで押し込み45分間での逆転」だったはず。良いところまではいったものの、訪れた決定機を活かせなかった。運から見放されたという言い方も正しいかもしれない。サッカーとは残酷な物を持ち合わせている。

まとめ

 今回は「5レーン」を使った「数的優位」の話しをした。これがモダンサッカーの本質に近い。正直Jリーグではあまり考えられない戦術的な展開がこの試合では多かった。
 スペインでは、幼い頃から戦術を教え込むことが風習となっている。選手個々人が、これまで培ってきた戦術に対する理解度が体現されたゲームだったと言っても過言では無い。逆に、日本人は「組織」ではなく「個」によるプレーが多いと感じる。高校サッカーや大学サッカーでもガチガチの戦術的な戦い方をしているチームは少ない。よくある「堅守速攻」などは、「戦術」よりも「戦略」の方に近い言葉だ。
 これからの日本は「戦術」に対してもっと足を踏み込むべきではないだろうか。

ヘッダー画像(gettyimages出典)
図式(Football Board)

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