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葛西薫氏“オーバーラップしながら自分のこととして受け入れることができる作品” 『椿の庭』オンライントークイベント開催!

写真界の巨匠・上田義彦初監督作『椿の庭』が4月9日(金)よりシネスイッチ銀座他にて全国順次公開します。それに先駆け、先日26日に本作の監督であり、国内外で高い評価を受ける世界的写真家の上田義彦監督と、サントリーウーロン茶中国シリーズ、ユナイテッドアローズ、とらや、TORAYA CAFÉなどの広告制作およびアートディレクションを務め、本作ではポスター、チラシなどの宣伝美術を手がけた葛西薫氏を招きトークイベントを行いました!

数多くのお仕事でタッグを組み親交の深いお二人が、息の合ったトークを繰り広げました。

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写真は、トークイベント中の葛西薫氏(左)と上田義彦監督(右)

★葛西氏“オーバーラップしながら自分のこととして受け入れることができる作品”

和やかな雰囲気で話し始めたお二人。「初めて広告写真を手掛けたときも葛西さんとの仕事だった。以来、大事な場面で一緒に仕事をしたいのは、やはり葛西さん」と絶対的な信頼を見せる上田監督。

葛西氏に作品の感想を伺うと「(冗談めかして)上田200%」と、一言。「上田さんの上田さんたるものを、100%投入していたら、気が付いたら200%になっていたような密度。空気、光、時間を、じっと見つめてきた写真家が撮った長編の深みがある。目に触れるすべての事物を丁寧に映し出すことで、人間、風、花、虫、どれが主人公なのかわからないくらい、それぞれが引き立っている。映画を観ている人がストーリーを追いながらも、1シーン1シーンを、自分の経験、見た景色と照らし合わせオーバーラップしながら自分自身のこととして受け入れていくのではないかと感じる映画」と続けて語る葛西氏の言葉に、上田監督も「見たものを全て撮りつくして映像にしたい、という欲張りな思いがあったので、それが伝わったということだと思う」とにこやかに頷いた。

★上田監督「フィルムの粒子には、独特の香りがある」

本作の大きな特徴として、なんといってもフィルムカメラで撮り上げた点がある。「フィルムの粒子なんて普段意識しないけれどちゃんと人間の目は識別をしていて、古くからある映画独特の香りというのは、フィルムでこそ出るのではと思い、そこは拘りました。」と上田監督。これには葛西氏も「音楽も、かつてのLPレコードでは、針を落とした時の細かなノイズ(ホワイトノイズ)があった。それがCDになったときに、無音から急に音が出るようになり、まるで背景が活きているフィルム写真と、切り抜きの写真の違いのようで。ノイズも耳で意識しているわけではなく、通ずるものがある。ホワイトノイズという言葉を初めて知った時、漠然と感じていたこの違いを発見でき嬉しくなりました」と同じことを感じていたと明かした。拘りの深さから上田監督の口調にも熱がこもり「論理的には考えてないけれど、気持ちが良い、美しいと感じる。意識をしていなくても、感じ方が全然違ってきます。」と加えた。

★葛西氏「映画というよりは小説を読むような時間となってほしい」

今回の広告を手掛けるに際して、意識した点について葛西氏は「なるべく、そのまま上田さんの思いを伝えるために余計な脚色や演出をしたくない。映画というよりは小説を読むような時間となってほしいと思っていた。」と語った。広告に使われた、印象的な書体は「ボドニーという欧文書体の日本語版として田中一光さんが作った光朝(こうちょう)というフォントを使用した。縦線が太く、横線が極端に細い明朝体で、上田さんも見せた瞬間に これ! と言ったくらい作品の雰囲気とぴったり合い、文字自体の画としてのデザイン性も強いため、脚色なく作品の雰囲気を伝えられると思いました」。

出来についての感想を求められた上田監督は「想像を超えていて、嬉しくなりました」とオープニングのタイトルを観た時の衝撃を述べた。「存在感があり、恣意的に作られたというより、天から降りてきた神々しいもののようで、これこそ『椿の庭』を支えてくれるグラフィックである。なにか大事なことを思い出させてくれるような存在であると強く感じました」。

葛西氏は意図について、「最近の映画のタイトルは、小さくまとまっている印象がある。それを打ち破りたい気持ちもあり、今のタイトルのボリューム感に繋がった」と言及した。

★日本家屋の佇まい、そして湿度のある「東アジア」の映画を作り上げた俳優陣

本作の見どころを監督に伺うと「日本独特の、培ってきた文化に包まれて生活している人たちが住んでいる家の存在を感じて欲しい。ずっとあるものではなくて、ある日突然なくなってしまったりする、そういった儚さがある」と強調。また、本作に登場した俳優陣については「この人でなければ、という人にそれぞれお願いをしています。絹子は絶対に富司さんだと思っていたので、もし断られてしまっていたらこの映画は成り得なかったし、伝統的な日本家屋の中であるのに、インターネットや都会の喧騒から切り離された環境とシム・ウンギョンさんやチャン・チェンさんの存在が、日本に限定しない“東アジア”としての雰囲気を作り出してくれました」と俳優が作品に与えた厚み、日本的な美意識とアジアの雰囲気の融合の貴重さを語った。

葛西氏は「何も起こらない幸せ。一刻一刻の大切さを痛感させてくれる作品。何も起こらないことのかけがえのなさ、平穏のすばらしさを観て欲しいです」と締めくくった。

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写真は、トークイベント後の葛西薫氏、上田義彦監督、司会進行を務めて頂いた菅付雅信さん。イベント終了後も、盛り上がる3人のお話はまだまだ続く、、。

◆上田義彦
1957年生まれ、兵庫県出身。写真家、多摩美術大学教授。
福田匡伸・有田泰而に師事。1982年に写真家として独立。以来、透徹した自身の美学のもと、さまざまな被写体に向き合う。ポートレート、静物、風景、建築、パフォーマンスなど、カテゴリーを超越した作品は国内外で高い評価を得る。またエディトリアルワークをきっかけに、広告写真やコマーシャルフィルムなどを数多く手がけ、東京ADC賞最高賞、ニューヨークADC賞をはじめ、国内外の様々な賞を受賞。作家活動は独立当初から継続し、代表作に「Quinault」「AMAGATSU」「Materia」「at Home」など、2020年までに38冊の写真集を刊行。近著に「A life with Camera」「林檎の木」「68th Street」がある。2011年よりGallery 916を主宰。2014年には日本写真協会作家賞を受賞。
◆葛西薫
1949年札幌市生まれ。1973年(株)サン・アド入社。サントリーウーロン茶中国シリーズ、ユナイテッドアローズ、とらや、TORAYA CAFÉなどの広告制作およびアートディレクションの他、サントリー、サントリー美術館のCI・サイン計画、映画・演劇の宣伝制作、装丁など、活動は多岐。東京ADCグランプリ、毎日デザイン賞、講談社出版文化賞ブックデザイン賞など受賞。著書に「図録 葛西薫1968」(ADP刊)がある。

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映画『椿の庭』作品情報

予告編はこちら→https://youtu.be/pWXGldp0sHI
作品公式サイト→http://www.bitters.co.jp/tsubaki/

<物語>かつて夫と語り合い、子供たちを育てた家に、今は孫娘の渚と住む絹子。夫の四十九日を終えたばかりの春の朝、 世話していた金魚が死に、椿の花でその体を包み込み土に還した。命あるものはやがて朽ちる。家や庭で起こる些細な出来事、 過去の記憶に想いを馳せ慈しむ日々の中、ある日絹子へ一本の電話がかかってくる。それは、相続の問題から、絹子に家を手放すことを求める不動産屋黄からの電話だった。

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監督・脚本・撮影:上田義彦
出演:富司純子 沈恩敬(シム・ウンギョン)
   田辺誠一 清水綋治
   張震(チャン・チェン) 
   鈴木京香
配給:ビターズ・エンド
2020年/日本/128分/アメリカンビスタ/カラー
©︎2020"A Garden of Camellias" Film Partners
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