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ラムネと水道水とお下がりの自転車

私は運動音痴で自転車を補助輪なしで乗れたのは小学生3年の時だった。

ボロボロになりながら自転車をひとりで乗れるようになってからは 

どんなに近くても自転車をのるようになった。

補助輪なしだとジャージャー言わずスーッと走るの。まさに今で言うプリウスのよう。
初めて乗った時の静けさに感激した感覚である。
さらに
頬を強く擦る風を感じが最高だと気がついた。

静かに進む。一漕ぎするだけでグーンっと前に進む。

その感覚を感じてたくて学校から帰っては夕方になるまで乗り続けた。

私の地元には 真っ直ぐ続く道があった。周りは田んぼで見通しも見晴らしもよかった。

その道を自転車で進むが好きだった。


しかし 好きというのは慣れてくるとだんだん物足りなく感じるものだ。恋と同じだ。

マンネリ化だ。

 よく晴れた秋の日 わたしは冒険に出た。
相棒は姉からのお下がり赤い自転車と淡いピンクのリュックサック。中にはラムネ菓子と水道水を入れた水筒。それを自転車にある凹んだカゴにつっこんで出かけた。

気の向くまま 走り出した。

いつもは町内をぐるぐるしてるだけだけど今日はどこへでも行こう!!

そう思い色々な期待をしながら軽快に漕ぐ。

景色が流れてく。

風が火照る体を冷やしてくれる。

どこまでも!どこまでも行ける!!!!


喉が乾けば 水筒をあけて飲む。

いつも飲むより最高に美味しかった。


ぷはーーっと!お酒のように飲む。

五臓六腑にしみる感覚はこのときに覚えた気がする。英才教育やね。

お腹が減ればラムネを食べる。

ぽりっぽりっとした食感と優しい甘さが格別。

まだ!まだ!進むぞ!!!

たくさんのご飯屋さんが並ぶ通りを駆け抜ける。
色んな香りがする!

初めての体験でどきどきした。


くねくねと細い道。

車通りの多い道。

大きな車道に、出た時は感激した。
車線がたくさんになったのだ!
しかも陸橋もあっり地下のトンネルみたいな道もあったり!!

も、も、も、もしや!!ここは!!!

東京なのかもしれん!!!!!
(※旧8号の寺井と小松の境目みたいなところでした)

頭の中の日本地図は48都道府県なかった。
石川の下は東京。
そう思ってた。(酷いな(笑))

ここは東京なのだと思った。
向こうには鉄塔が見える!
これは東京タワー!!!!(※ただの鉄塔)

車の流れと一緒に自転車を漕いでいく。

自転車の方が早いかもしれん!と競争する。


それの繰り返し。



前へ!



前へ!!



前へ!!!!!!!



気がつくと頭の上にあった太陽が沈みかけている。


きれいな濃いブルーとオレンジの空。


車のヘッドライトが流れてく。

 先程まで頬を撫でていた風が鋭くなった。

急に東京まで来たことが不安になった。
(※東京では無い)


帰らなきゃ。



振り向くとそこは知らないとこだった。



その瞬間自分がとてつないところにやってきたことが分かった。



このまんま家にも帰られず生きていくのかもしれない。

姉のお下がりの赤い自転車とほぼ空になった水筒と残り3粒のラムネ。


絶望した。そして、後悔した。

何故そこまで疲れてもないのにガブガブ水を飲んだのだろう…
ちょっと調子乗ってラムネを1粒づつじゃなくて直接口をつけてガバガバ食べたのだろ…

いやそもそも!
なぜ遠くに来てしまったのだろうか…

疑問を答えてくれるはずもない
風はただ鋭く身を刺す。

わたしは


交番を探した。



しかしそんな時に限って見つからない。



不安で泣きながら多分来たであろう道を自転車を漕ぐ。


それからどれくらい漕いだだろうか……。

今は何時なんだろうか……。

ラムネを1個

周りは暗い。

ラムネを1個

もうダメだ足も痛い。

ラムネを…1個。

このまんま 死んじゃうんや……と。


すべてが空になった私はとうとう立ち止まった。

もうだめ。


おわった。
私の人生はおわった…


と思ったが


ふと、前を向くとそれはそれはきれいな建物が見えた。


光り輝く眩しい

ジャスコだ。

ピンクの看板に白い文字…


あれここ…

あれ!!!ここ!!!!!


私は折れた心と身体に最後の力を振り込んで自転車を漕いだ…!


なぜならそこは


行ったことのあるジャスコだったのだ

まちがいない!


年に数回 いとこのおばさん達に連れて行ってもらえるメダルゲームやマクドナルドがあるジャスコだ!

ここは東京なんかじゃない!


行ったことのある街だと気がつく。

ガクガクの体にムチを打ち

私はサービスセンターへいき、
自転車を乗っていたら迷子になりました。家に電話をして欲しいです。と伝えた。


電話を借りて家に電話した。
そこからそこまで時間はたってなかったと思う。

ジャスコの店員さんは優しかった。

飴をくれたり ポカリをくれたり。

この時の夢はジャスコの店員さんになることになった瞬間だった。(←しかし心変わり早い)

母ケイコと姉が自転車に乗ってむかえにきてくれた。

母ケイコがジャスコの方へ超絶謝って

姉に私は超絶怒られた。どつかれた。頭をパコーンと叩かれた。

その帰り。

3人で縦に並んで自転車に乗って帰る。

行きはすごく遠く行った感じた道も帰りは果てしなく真っ直ぐ道だった。あれ、違い。あんなに遠くに来たと思ったのに。そう思ったら
そこまで行ってなかったことと、姉に叩かれた痛みがモヤりとした。

でも、2人の背中を見ながらの自転車をこぐ。

この景色がとてもほっとした。

「今日何食べるー?」と聞いたら
帰り道なんにめちゃくちゃ怒られた。(笑)

「バカッ!!!」と姉に言われた。

家に帰ってからも姉にこっぴどく叱られた。
「バカッ」「アホっ」「ダラブチ」「オタンコナス!」フルコンボだドン。

 姉にガンガンに責められたあと、母ケイコだけには謝った。

そしたらポンポンと抱きしめられた。
なんだかそれが嬉しくて

「私はやっぱり実家にずっとおるわ!ほんで家からジャスコに、働きに行くね!」なんて言ったも思う。本当にお調子者だ。

その日のご飯は甘いイナリ雑炊だった。
身に染みた。

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