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複合エンドポイントとWin ratio (勝利比) method

Paterson先生のxでwin ratioについて言及されていました。これから感染症の臨床試験でも適用されてくるかもしれないとのこと。勝利比という訳語が適切かどうかわからないので,もっとこなれた訳語が今後出てくるかもしれません。

循環器領域で使われることが多いようですが,COVID-19の研究でも抗凝固療法のRCTで採用されていたことがありました(抗凝固療法なので,循環器領域と親和性が高かったのかもしれません)。以前勉強したことをまとめていたので紹介します。

複合エンドポイントの解釈上の注意点

win ratioを説明する前に複合エンドポイントについて理解しておく必要があります。
本当は死亡や心筋梗塞のような
ハードエンドポイントを設定したいけれども,死亡や心筋梗塞の発生率は低く,
稀なイベントについて有意差を検出しようとすると
サンプルサイズがとても大きくなってしまいます。そこで,よりソフトなエンドポイントを含めて合わせ技で
評価する方法です。
例えば,心筋梗塞発症や死亡だけでなく,狭心症発症または増悪での入院や心不全発症または増悪での入院も合わせて複合エンドポイントとして設定します。
結果として,狭心症発症または増悪での入院,心不全発症または増悪での入院で差が大きくつき,心筋梗塞発症,死亡はほとんど差がなかった場合でも,全体として主要アウトカム改善を達成することができます。
ハードエンドポイントでは差がつかなかったけれど,ソフトなエンドポイントでは差がついた,というケースです。
ここで注意が必要なのは,生存時間解析で複合エンドポイントを使うと,
最初に起こったイベントだけがカウントされてしまう点です。例えば,心不全で入院→その後死亡
の場合は,一次エンドポイントには「
心不全で入院」しか反映されません。

ACTION trial

Dダイマーが上昇しているCovid-19患者に対する治療量 vs 予防量の抗凝固療法のRCT (ACTION trial)でwin ratioが使われていました。

https://www.thelancet.com/article/S0140-6736%2821%2901203-4/fulltext

"The primary efficacy outcome was a hierarchical analysis of time to death, duration of hospitalisation, or duration of supplemental oxygen to day 30, analysed with the win ratio method (a ratio >1 reflects a better outcome in the therapeutic anticoagulation group) in the intention-to-treat population."
[主要有効性転帰は、intention-to-treat集団においてwin ratio法(比が1以上であれば抗凝固療法群で転帰が良好)を用いて解析された、30日目までの死亡までの期間、入院期間、補助酸素投与期間の階層分析であった。]

COVID-19確定入院患者で,発症から14日以内,Dダイマーが正常上限より上昇していた人を対象に,抗凝固薬の治療量群と予防量群で比較しています。
有効性のプライマリーアウトカムは,30日間の死亡までの時間,入院期間,酸素吸入期間の複合階層アウトカム
で,アウトカムの深刻さによって階層化(順位づけ)がされています。すなわち,

死亡>入院期間>酸素吸入期間

の順です。

30日間の死亡までの時間,入院期間,酸素吸入期間の複合階層アウトカム

→介入群,対照群で死亡した人同士を比べ長く生存していた人が「勝利」
 
 →生存期間が同じか30日間生存していた場合は,入院期間を比べて入院期間が短い方が「勝利」
  
  →入院期間も同じだった場合は,酸素吸入期間を比べて短い方が「勝利」
最終的に,勝ち負けの比が1を超えていたら介入群が良好と判定します。

結果は,以下の通り。予防量と比べて治療量では予後は改善せず,治療量の方が出血イベントが多く,予防量の方がよいという結論です。

どうやって比べるのか?

win ratioを比べる方法はいくつかあるようです。

ACTION trialでは安定した患者と不安定な患者で層別化して,層毎にwin ratioを算出して統合しているので,stratified win ratio approachに相当すると思います。

ハザード比とwin ratioの比較

従来はハザード比が使われるような状況でwin ratioが代わりに使われることがあります。
16の大規模な心血管アウトカムトライアルについて,ハザード比(HR),勝利比(WR)は同等の治療効果を報告していたとされます(JACC Heart Fail. 2020;8:441–50. )。
WRは致死的なアウトカムに重きをおきつつ,階層化することにより,患者報告アウトカムなど幅広い複合エンドポイントを含めることができる利点があります。

win ratioについてもっと勉強したい人は,↓のブログにリソースがまとまっていました。
https://tuowang.rbind.io/blog/2021-01-15-win-ratio-references/

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