咽頭痛に対するトラネキサム酸
「咽頭炎に対するトラネキサム酸の効果」について以前調べたことをこちらに再掲します。トラネキサム酸(トランサミン錠)は,なぜか
・下記疾患における咽頭痛・発赤・充血・腫脹等の症状
扁桃炎、咽喉頭炎
・口内炎における口内痛及び口内粘膜アフター
に保険適用があります。
以前調べた時に根拠になる論文が見つけられなかったので,「かぜ診療マニュアル」ではスルーしていました。
インタビューフォームをみると,
咽喉頭・口腔疾患におけるTranexamic acid(Transamin)の使用経験 -二重盲検法による. 臨床と研究. 1969;46:243–5.
という研究が根拠として引用されていました。そういえば以前調べた時はPubMedで英語の文献しか調べなかったので,こういうのもきちんと確認しないといけないなと思いました。
double blindのRCTですが,「われわれは医局員まで盲目にして先入観念を除き」というパワーワードに時代を感じました。
作用機序は,抗プラスミン作用を介した抗炎症作用のようです。
急性咽喉炎(性急は誤記でしょう),急性扁桃炎,口内炎を対象にというなんだか雑多な集団のように思えますが,有効だった割合(初診時に医師3人で自覚症状,他覚症状によって重症例,中等度症例,軽症例に分類し,4日後の判定日に再び医師3名,治療に当たった医師により軽快度を判定)は
全体では有意差がついていますが,咽喉頭炎と扁桃炎はともかく口内炎は全く別の病気のような気がするので,一緒に解析するのはあまり釈然としません。図4をみると,確かにプラセボ群に比べて効果がありそうには見えます。医師の主観的な判断によるものですが,「医局員を盲目にして」まで判定したものですし・・・・・・
副作用はそれほど大きなものはないようですし,使ってみても悪くないような気もしますが,症状緩和ならNSAIDsやアセトアミノフェンでもよいような気もします。
ちなみに,トラネキサム酸は,外傷や産後出血に対する止血効果で見直されています。大学院生の頃,LSHTM(ロンドン熱帯医学校)のIan Roberts先生のお話を聞く機会がありました。トラネキサム酸の外傷や産後出血における死亡減少効果を示したRCTを主導された方です。
外傷のCRASH-2 trial
http://crash2.lshtm.ac.uk
論文はLancet. 2011;377:1096–101–1101.e1–2.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21439633
産後出血のWoman trial
http://womantrial.lshtm.ac.uk
論文はLancet. 2017;389(10084):2105–16.
http://womantrial.lshtm.ac.uk/wp-content/uploads/2017/04/compressed-for-website_WOMAN-1.pdf
私自身,研修医時代におまじない的だなぁと思いながら使っていたトラネキサム酸の効果が示されたことに驚きと感動を覚えました。
そしてもう一つ驚きというか,不勉強だったことにトラネキサム酸の開発者は岡本彰祐先生・歌子先生ご夫妻によって開発されたということでした。
岡本歌子先生は,Wikipediaによると2016年4月にお亡くなりになったそうですが,90歳を過ぎても研究活動をなさっていたようでした。ネット上にインタビューなどもありました(これを読めばCRASH-2の論文が日本語訳されている理由がわかるかもしれません)。
コラム後半~「神戸へ、そして歌子先生との出会い」
インタビュー中,以下の部分は壮絶でした。
ちなみにですが,この娘さんと,おそらくですが一緒の病院で働いたことがあります。そのことに気づいた時には,その方は定年退職された後だったので,確認はできませんでしたが。
という本も買ってみましたが,なかなかすごい本でした。
当時,女性が医師,医学研究者になるということは,想像を絶する苦労があったのだろうと思います。
もしかすると止血効果と同様に,きちんと再評価すればもっと見直されてもよい薬なのかもしれませんね。知らんけど。
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