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日本式経営腐敗論③日本の大企業はいつから儲けられなくなったのか?(1960年~2000年)

この辺になってくると、私がよく研修の機会などでお伝えしていることになりますので、さくさく話を進めていきたいと思います。

このお話を紹介するのに、いつも引用させていただいているのが、三品和広先生の『戦略』シリーズです。特に、『戦略不全の論理』(2004)で書かれているお話を紹介します。

戦略不全、という言葉の馴染みがないかと思いますが、これは戦略の良し悪しということよりは、戦略が成果を出しているのか、というところに着目したものです。

要するに、戦略がうまくいってれば結果として儲かっているでしょ、ということです。

では、何を以て、儲かっているかどうか、という判断ですが、三品先生は、これはシンプルに、売上高営業利益率、で見ています。

「売上高営業利益率」というのはつまり、「営業利益/売上高」率なので、売上100に対して利益がいくらあったか、というものを100%換算で計算したものです。

ここで質問です。戦後、日本企業が儲からなくなった、つまり、「売上高営業利益率」が下落に転じたのは、いつからだと思いますか?

バブル崩壊?
失われた10年? 20年?

その答えを導き出すために、三品教授(とおそらくその助手の皆さん)は、「東京、大阪、名古屋の三大証券取引所および2部に上場する企業の、1960年以降40年間にわたる業績データ」を調べ、集計されました。曰く、「すべての大企業を網羅するのみならず、いわゆる中堅企業まで含んでいる」とのこと。データについて細かいことが気になる方は、詳しいことは書籍を参照してください。

これはずばり、グラフを出しちゃった方がわかりやすいですね。

三品和広『戦略不全の論理』(2004)P.32

非製造業はともかく、また、短期の上下はともかく、長期で見ますと、製造業も1960年代からずっと売上高営業利益率が下落傾向であることがわかります。

さらに、数字が大きい製造業だけに絞り、売上高との対比を見たグラフがこちらです。

三品和広『戦略不全の論理』(2004)P.35

これも長期で見ると、売上は上昇傾向なのに、売上高営業利益率は下落傾向。

これは何ででしょうか?

原因はともかく、実は思い当たることはあります。それは、経済系の新聞の記事で、大企業の話題が上るとき、たいてい、

減収減益
増収増益

という言葉が出ます。あくまでもイメージですが、売上が先、利益が後、ですね。

では、

増収減益
減収増益

これは、どっちが、良さそうに見えますかね?

日本人はどこか増収はいいことだ、という価値観を刷り込まれてきていて、前者(増収減益)の方が後者(減収増益)よりも良さそうなのでは?と思ってしまいがちなのではないでしょうか?(わからんけど)

これのもとになっている考え方が、作れば作るほどいい、売れれば売れるほどいい、という考え方です。この「いい」というのが何を意味しているかと言えば、売上が上がる、という意味です。決して「利益」のことではありません。

この、売上が高ければ高いほど良い経営、という考え方が、日本の会社が儲からなくなる呪い、です。

詳しくはミクロ経済学の理論の話になってしまいますので、詳しい話は、私もお手伝いしています石川秀樹先生の書籍と講義にお任せしたいと思います。こちらは、書籍を買うだけで、無料の24時間分の動画がついてくる、というもので、私も中小企業診断士の勉強の際に、これだけで一次試験の経済学を合格することができました(宣伝)。

(ちなみに私は診断士は一次試験合格で満足してしまい、資格取っても更新が大変そうなので、そこで終了しています。)

さて、おそらく日本の製造業が成長したのは朝鮮戦争の特需の時だと思われるのですが、この時は戦時中ですから、まさに作れば作るほど売れる状態だったのでしょう。短期では、この話は成り立ちます。では、長期ではどうかというと、こういうことのようです。(よくわからない方は飛ばしてください。)

プラスの利潤があれば、他の産業よりも利益が多いという意味ですから、他の産業からこの産業に新規参入してきます。(中略)利潤がプラスである限り新規参入が起こり(中略)、結局、利潤=0となる価格Paとなる供給曲線LS'となるまで右シフトします。LS'と需要曲線Dの交点Eaでは、価格Paであり。利潤=0の水準ですから、もはや新規参入はなく、供給曲線はシフトしませんので、経済は点Eaで落ち着きます。

石川秀樹『速習!ミクロ経済学 2nd』P.176
石川秀樹『速習!ミクロ経済学 2nd』P.176

要するに、儲かっていることがわかれば、みんなそこに参入してくるよね。で、価格競争が起こって、儲からなくなったら、そこで市場は安定するよね、ということです。

もちろん、特許だとかそういうもので、模倣されるのを防ぐ、という戦略は無くもないでしょうが、実際のところは、日本のメーカーでも、海外のコピー機を徹底的に分析して、特許を使わないコピー機を作り上げてしまったという前科(?)もあります。多少、抵抗したところで、経済学の考え方から言えば、売上を追う戦略は、長期的にはこのトレンドに収斂してしまう、ということを意味しています。

GHQから始まり、朝鮮戦争での特需と、戦後復興で保護的な政策の元、新規参入もない世界での生産拡大は、日本に高度成長をもたらしました。しかし、その裏では、徐々に徐々に利益率が落ちていく、という病気にかかっていたのです。

ちなみに利益率が下がっていくと問題になるのがなぜかと言うと、別にそのお金で苦労して事業やらなくても、誰かに預けた方が儲かるんじゃない?ということになると、資本が事業から逃げていくから、です。ちなみに、今、ググってみたら、米国債券10年の年利回りは4%ちょっと。上のグラフですと、1997年以降、4%を切っていますから、製造業に投資するよりも、米国債券に投資した方がリターンが出る、ということになっています。これはとてもまずい。

もちろん、実際にはそんな簡単な話ではないので、大企業からお金が吸い上げられて全部、潰れてしまう、という極端な話ではないのですが、なぜ、日本銀行や年金機構などが日本株を買い支えしなければならないのか、なぜ、NISAなどを宣伝してタンス預金を投資に回してもらわなければならないのか、なぜ、日本の株価が上昇するように政府が誘導しているのか、その努力しなければならない根本的な原因は、日本企業の売上高対利益率が好転しないから、ということが挙げられるのかと思います。

では、日本企業の収益性を高めるために何をすればいいのか? ということになるのですが、その前に、収益性や利益率、もっと言えば、利益額を確保することが最重要課題なんだよ、という意識がないと、なかなか実現しないことかと思います。

もちろん、その背景には、どれくらい儲かっているか、ということを自慢することへの日本人的な美徳感もあるのかもしれません。逆に、儲かっていることを自慢している会社やお店から物を買いたくないと思う気持ちも理解できます。

ということで、この話はなかなか根深い話でありながら、日本の産業界が抱える呪われた病であるという認識を置いておくにとどめて、今回の題名の問いは回収できていますので、ここで筆をおきたいと思いますが、とりあえず、経営とかマネジメントに携わる人は、経済学の基本の勉強はしておいた方がいいんじゃないかな、とは思うのです。

現場からは以上です。

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