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【雑談】8月読んだ本/なぜ小説家志望は「筆力」を磨くのか?

9月に入りましたが、夏の暑さが軽減することもなく。穏やかな気候の日々が短くて四季というものが、狂い始めているなあ、と感じるこの頃です。お元気にしていましたでしょうか。読んだ本の紹介と、ひとりでぐるぐる考えたことを話したいと思います。

<先月読んだ本の紹介>

・「アダム・スミス」/堂目卓生(中央公論社)
・「ベスト・ストーリーズ3 カボチャ編」/ウィリアム・トレヴァー他 若島 正編(早川書房)
・「身内のよんどころない事情により」/ペーター・テリン 訳奥山さき
(新潮社)
・「□(しかく)」/阿部和重(リトル・モア)
・「倫理学入門」/品川哲彦(中央公論社)
・「国境の向こう側」/グレアム・グリーン 訳高橋和久他(早川書房)
・「<問い>から始めるアート思考」/吉井仁美(光文社)

計7冊ですね。わたしとしては読めた月なのですが、文学作品は合わないものと、ヒットしたものとの差が大きかったです。合わないものは伏せておきますが(あまりにもひどかった)、ヒットしたのはグレアム・グリーンの「国境の向こう側」という短編集。グレアム・グリーンは長編を2作品読む程度でしたが、この本に出会いどれも傑作ぞろいで驚きました。

ひとつの作品がどれも本当に短い尺なのですが、読者を驚かせたり、興味を引き付けたり、そういうテクニックがとても巧い。驚いたのは、戦場の描写ですね。何がすごいのかというと、複数の人物の位置関係をしっかり把握して、流れるように心理描写とアクション、ストーリーを動かしていくのですよ。しかも、少ない枚数の短編で結末もいい。筆力が桁違いです。

文学作品以外では、新書がおもしろかったです。アダム・スミスに感動して(入門書なので彼の理論の欠陥はわからないのですが)、倫理学、それから今はカントに手を伸ばしたりしています。思想系ではないですが、「<問い>から始めるアート思考」も今までの自分にはなかった視点が得られ、なかなか興味深かった。保坂和志さんの小説シリーズ(創作本)を読み倒した(言葉が悪い)ことがありましたが、保坂さんの言っていたことと通じるものがありました。

はあ、読書が充実すると力が漲る。

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<なぜ小説家志望は「筆力」を磨くのか?>

数年前から、いや公募活動を始めたときから、疑問に思うことがありました。それは、「なぜ小説家志望は、ストーリーではなく筆力を重視するのか?」という点です。とはいえ、エンタメ系を目指す小説家志望の方たちはストーリーも重視しています。しかし、(統計を出したわけではないですが)個人的に感じていることは、純文学系の志望の人は「文章の練習」に励む人が多い。(あるいは、かつて多かった

なぜ?

確かに、純文学のほうが文体にこだわる傾向がある。しかしあえて、わたしが疑問に思うのは、正直に言って「文章が巧い書き手」が賞に残るわけではないということ。”文章の表現力がある一定の水準”を満たせば、あとは着眼点・独自性・社会性(今読まれるべきもの)などの要素が絡みあい、刺さる文学作品が残っているのではないか、とわたしは考えるわけです。

(独断と偏見です)

新しい文体を開発しても、それが評価されるわけでもないし……。わたしがブログ書いていたときは、写経をしたりして文章力を磨いていた人もいました。正直、その人の筆力はあるし巧いので「そこを重視する必要があるのかな?」と疑問に思ったり。端的にいうと、「筆力で勝とうとする」のは分が悪い。拙い文章でも、熱量(ぼんやりした言葉)で賞をもらう人もいますからね……。

でもそれから考えたわけですよ。”筆力を磨く意味”を。そしたらあることに気づいたのです。

筆力は他の分野より伸びやすい。

これに気づいたとき、凝り固まったものが氷解していくように、すべてが納得いきました。確かにストーリーとか新しい着眼点とか、シュールな設定とか、その人のセンス(恵まれたもの)にかかわってくるわけで、そこを伸ばすのは難しい。しかし、筆力は書けば書くほど、筋肉のように鍛えられるわけなのですよね。そっかそっかそっか。ひとりで納得していました。

そう考えれば、伸びにくいところを鍛えるより、伸びやすいところを重点的に鍛えたほうが物書きとして育っていくわけですよ。いったん書いて、書けないところに気づいたり、書けないところは他のフィクションではどう描いているのか――これを映像や文学作品で確かめたり。それからまた自分の手で再現してみる。この繰り返しをすればいいわけですよ。磨く方法がはっきりとしているのですよ。

※みなさん、お気づきかと思いますが、すべてわたしの脳内で仮説から論理を展開しているだけです。確証はありません。

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ということを考えたりしていました。わたしも筆力(主に描写と書く体力)を鍛えたいと思います。

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