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【ボクシング】ジャブで幻惑。西田凌佑が完封防衛/ダウン挽回。原優奈が鮮やか逆転王座奪取/初のKO勝利で中島玲が暫定王座獲得

☆4月1日/大阪府・エディオンアリーナ大阪第2競技場
WBOアジアパシフィック・バンタム級タイトルマッチ12回戦
○西田 凌佑(六島)チャンピオン
●ソンセン・ポーヤム(タイ)3位
判定3-0(120対107、120対107、120対107)

 完全封鎖。この言葉しか浮かんでこない西田の完全勝利だった。が、3度目の防衛を果たした西田には笑顔がない。「完勝」から「圧勝」への飛翔を期していたからなのだろう。

 初回開始早々から前の手の駆け引きに引き込んだ。西田はソンセンの左グローブの内、外を叩き、外側を払おうとすれば中、内側にパリングしようとすれば外から右ジャブを突き通した。ここのやり取りにソンセンの意識を集中させれば左ストレート。そしてストレートと思わせておいてボディーアッパー。右ジャブはフェイントも入れ、タイミングや強弱などの変化も加えるから、ソンセンはいっそう戸惑うことになる。派手な動きはなくとも、この駆け引きだけで西田はあっという間に主導権を手繰り寄せてしまった。

 前の手のジャブ。奥の手の左ストレート。基本的にはこのシンプルな攻撃だけで、西田はボクシングの土台を作り上げている。もちろん、これらを磨き抜いて、高いレベルに引き上げている。彼のボクシングを見ていると、いかにこのふたつの攻撃が大切か、いつも痛感させられる。

 ここがしっかりしているからこそ、左ストレートからの返しの右フックがいっそう効果を上げる。そしてジャブも当たる。左アッパーカットも当たる。リズムが悪くなれば、また右ジャブからの立て直しを図れる。幻惑されまくったソンセンは、右の相打ちカウンターを狙うしか手立てがなくなる。が、左が飛んでくるタイミングがわからないから見入ってしまう。その間に、どんどん西田に打たれてしまう。

 5ラウンドに引っかけ気味の右フックで西田はダウンを奪ったが、自分の距離、空間をキープして淡々と進めていくのは変わりない。7ラウンド、これまで西田の左に対する右を狙い続けてきたソンセンは、右ジャブに合わせ、狙い打つポイントを変えて打った。西田が危険だったのはこの瞬間だけだったといっていい。

 ソンセンを封じ込めていた西田は、さらに別のステージに上がるためにギアを上げる。連打の回転を上げて、ストップに持ちこもうとした。顔面をしこたま打たれたソンセンだが、決して音を上げない。この連打の中で、1呼吸置いてボディーブローを突き刺すなどすれば、よりダメージを与えることができたのだろう。

 西田に必要なことは決定力ということになる。一撃の威力を上げるには、フォーム改造が必要ということは本人も陣営もわかっているだろうが、それはなかなかにして至難の業だ。
 何をもって決定力を上げるか。そこは今後の課題となる。

☆4月1日/大阪府・エディオンアリーナ大阪第2競技場
日本スーパーフェザー級タイトルマッチ10回戦
○原  優奈(真正)1位
●坂 晃典(仲里)チャンピオン
TKO4回1分3秒

 ジャブ、ジャブと忙しく使って動く原の左に坂が右クロスをかぶせると、原は尻もちをついてしまった。初回早々の出来事だった。けれども、立ち上がった原は、心を乱すことなく坂の追撃を回避すると、右アッパーカットを突き上げて坂にダメージを与えた。と、今度は原がややラフに攻める。出せば当たる。当たれば効かせられる。このモードになることこそ、坂が待ち受ける罠。煽られながらも右クロス、左フックのカウンターを狙っていた。

 しかし、2ラウンドに入ると、原はすっかり冷静さを取り戻していた。フットワークと左ジャブ。距離をしっかりとキープして、シャープなストレート攻撃を演じる。3ラウンドにはワンツー、ワンワンツー、そしてダブルジャブからの右アッパー。シンプルながら変化を加えたストレートが冴える。いきなりの右も坂をしっかりと捉えた。だが、初回のように慌て打ちはしなかった。ここを我慢できたことが、坂の攻め手を失わせた。

 4ラウンド。やはり決めたのはワンツーだった。それまでのタイミングとはまた変えて、1拍置いてのジャブから右ストレート。坂はたまらずにキャンバスに落下、立ち上がったもののダメージは濃厚で、原はここで強く攻めた。ふたたび右ストレートがヒットすると近藤謙二レフェリーが坂を救った。

 歯に衣着せぬ物言いで人を惹きつける原。しかし、ボクシングスキルと頭脳の高さも目を奪わせる。美しいストレートもさることながら、それを意識させてのアッパーが絶妙だった。

☆4月1日/大阪府・エディオンアリーナ大阪第2競技場
日本スーパーウェルター級暫定王座決定戦10回戦
○中島  玲(石田)1位
●加藤  寿(熊谷コサカ)2位
TKO9回1分27秒

 身長で15cm上回るサウスポー加藤は、立ち上がりから忙しくフットワークを使い、右ジャブを多用。プレスをかけてくる中島をポイントアウトしようと試みた。

 が、ブロックやヘッドスリップ、ウィービングに長けた中島は、手数は少なくとも体の寄せだけで圧力を与える。その入り際に、加藤は得意の左ストレートを浴びせたいのだが、それをなかなか繰り出せない。そうこうしているうちに、中島が左ボディーフック、アッパー、右をリードブローとした攻めで、加藤の心身を圧迫していった。

 ジャブを主体にし、時折左アッパーを中島のボディに送る加藤だが、手数では圧倒的に劣る中島の迫力ある数発に、相殺以上の効果を上げられてしまう。おびき寄せてのフットワークから、逃げのそれに変化していく加藤の動きに、中島はイライラを募らせた模様で、集中力を欠く場面もあったが、加藤にそこを突く心のゆとりは消えていった。

 加藤は得意の左ストレートを一体何発放ったろうか。そう思えるほどに、印象的なものはほとんどなかった。拳のトラブルなのか、あるいは中島の圧に封じられたのか。しかし、それを打たないことで、中島に「前に出る恐怖」を与えられなかった。

 中島の左ボディーブローは、じわじわと加藤にダメージを与えていた。それが加藤の意識を吸い寄せていた。9ラウンド、中島は右フックで加藤の左ガード外を叩き、左アッパーを打ち上げた。これでガクっとなった加藤に連打。半田隆基レフェリーが加藤を救った。

 防御技術の上手さは以前から定評のあった中島は、これが7戦目にして初のKO勝利。防御と攻撃のつなぎ目に大きな“間”を作ってしまうため、相手が心身を立て直す時間を与えてしまう。今後はここの“間”をどう埋めていくか。それが大きな課題となるだろう。

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