それはそれで楽しい人生

文系の大学院にまで行って何をしてたんですか?って聞かれた場合、法律の歴史です、と答えるようにしている。ペストが起きたときのイギリスの裁判手続きがどう変わったのかについてです、と。実際はもうちょっと具体的で現代的な内容だけどもうそのような説明しかできない。
もちろん、従来の学説よりもはるか昔から過失責任主義がとられていたことを古文書を読み解きつつ解明していくという最高にエキサイティングだけどこの世では私と私の指導教授しか楽しくないような内容でした。杉村!面白いよな!と先生に聞かれて、ハイ面白いです!でもこれをどうやって修士論文にすればいいんですか?世の中の何の役にも立ちません!と聞いたら、ばっかやろうそういうときは論文の最後にこの発見がどのように役に立つのかは後輩たちに任せます的に書いておけばいいんだよ、と指導されて適当に書いて終わった記憶がある。もう遠い記憶です。

上記が形式的な理由で、実際の理由は大学3年のときに何とか生活ができそうになってそれではとついに柔術を習い始めてそれが最高に面白すぎてあと二年だけ修行を続ければもうちょっと強くなれるんじゃないかとモラトリアムが欲しくて大学院に行っただけなので、何かしたくて大学院にいったわけではないのです。なお、大学院に行っていた二年間だけ瞬間最大風速的に日本の新卒採用事情が好転して氷河期世代に生まれたベビーブーマーの癖に就職もそれなりにできて万事塞翁が馬。

大学院では英語話者の先生も多かったし(なんせ英米法研究)、多量の格調高いの英語から判決から古文書まで読めたのだけはよかった。6年間の大学生活でいちども学園祭にはいかなかったしサークルにも入らなかったし卒業式もたぶん行かなかったので記憶にすらないし友達らしい友達もほとんどできなかったけれどそれもまた楽しかった。前半の二年間は空腹の記憶しかないけれどそれでもなお、どんな道でも、それはそれでたのしい人生だ。

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