りるちゃんとユーハイムさん 1 物語の発生
「小説を書くにはなんらかのフィクションが必要だ」
そうだね? とりるが言う。さらさらと落ちてくる髪を耳のうしろにおいやりながら、頬杖をついた彼は非常に優雅に笑っている。笑っているのは、彼自身がフィクションだからだ。
ユーハイムは頷く。合意を取る。
「なんらかのフィクションが必要だね。フィクションがないものは、小説とは呼ばれない。それはドキュメンタリーとかそういう種類のものだと思う」
「フィクションは最低限の要素だ。でもそれはどこから生まれるんだろう?」
ユーハイムは答える。
ユーハイムは、オレンジジュースの入ったプラスティックのコップに指をつっこみ、ひきあげた指で、テーブルの上に線を引いた。
「この線から、オレンジジュースであることや、ファミリーレストランの机の上であることは、排除していい。まず何の意味も持たない線が一本ある。それをイメージしてほしい」
「したよ」
「この線は『何』?」
ここから先は
625字
¥ 250
気に入っていただけたらサポートいただけるとうれしいです。