りるちゃんとユーハイムさん 1 物語の発生

「小説を書くにはなんらかのフィクションが必要だ」

 そうだね? とりるが言う。さらさらと落ちてくる髪を耳のうしろにおいやりながら、頬杖をついた彼は非常に優雅に笑っている。笑っているのは、彼自身がフィクションだからだ。

 ユーハイムは頷く。合意を取る。

「なんらかのフィクションが必要だね。フィクションがないものは、小説とは呼ばれない。それはドキュメンタリーとかそういう種類のものだと思う」

「フィクションは最低限の要素だ。でもそれはどこから生まれるんだろう?」

 ユーハイムは答える。

 ユーハイムは、オレンジジュースの入ったプラスティックのコップに指をつっこみ、ひきあげた指で、テーブルの上に線を引いた。

「この線から、オレンジジュースであることや、ファミリーレストランの机の上であることは、排除していい。まず何の意味も持たない線が一本ある。それをイメージしてほしい」

「したよ」

「この線は『何』?」

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