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三崎優太氏の誹謗中傷被害に至る経緯。事件に関与したジャーナリストが解説

5月20日未明、青汁王子こと実業家の三崎優太氏が、東京都内の自宅マンションから救急搬送されたと報道された。直近の数日間、三崎氏はSNS上で自身への誹謗中傷被害に悩まされていることを訴えており、被害を苦にして至った行動とみられる。

実際、一部のマスコミ関係者とYouTuberが調査会社まで用いて三崎氏のプライベートを暴き、YouTube番組としてのべ150本以上の動画を公開しており、三崎氏はそれらを事実無根と批判していた。なお三崎氏は、当該YouTuberに対して名誉毀損として刑事告訴をおこなっており、先日警視庁渋谷署が告訴状を受理したという。受理の旨は関係者からの確認もとれており、まさにこれから本格的な捜査が開始されるというところだった。

 
そもそも三崎氏に対して継続的な誹謗中傷がなされる契機となったのは、2020年8月~9月にかけて、「週刊新潮」および「デイリー新潮」に掲載された記事までさかのぼる。「青汁王子のすっきりしない金銭トラブル第二幕」「『街宣車を押しかけさせたんだよね』青汁王子、”贖罪キャラ“の裏で新たな裁判」などと題された記事では、「三崎氏は反社会的勢力との関りがある」「ライバル企業に街宣車を押しかけさせて業務妨害した」との主旨の内容が記載されていた。三崎氏は事実無根として、出版元である新潮社と執筆記者を名誉毀損で訴えており、本年3月に「記事は名誉毀損」「三崎氏と反社勢力には繋がりがない」として、三崎氏が勝訴。新潮社と執筆記者に対しては、計220万円の支払いが命じられている。

そのような経緯があるにも関わらず、当該YouTuberは三崎氏と反社との繋がりがあったとし、氏のプライベートまで暴露する内容の動画を継続して公開しており、被害者でさえない第三者がそこまで執拗に個人を追い詰めることに果たして公益性はあるのか、と批判の声も上がっているようだ。
 
本件にまつわる一連の騒動は経緯が複雑であり、関与している人物や会社も多く、並行して多数の裁判がおこなわれ、かつネットやYouTube上などでも様々な人物が多様な見解を示して情報が入り乱れていることから、「結局、どういう事件だったのか?」「三崎氏は結局シロか?クロか?」といった基本的な部分が非常に分かりにくくなっている。

実は、本件裁判資料中において「関係先に取材活動をおこなったジャーナリスト」として示されているのは私、ブラック企業アナリスト新田龍である。当時私は相手方当事者である「アスクレピオス製薬」代表者による背任、および会社乗っ取り疑惑について調査しており、事件の全貌を把握している。今回この事件を初めて知った方でもよく分かるよう、経緯をまとめて解説したい。

【登場人物/企業】

・三崎優太氏
⇒「青汁王子」の愛称で知られる、Eコマース事業などを手掛ける実業家。
 本件裁判の原告。
・株式会社メディアハーツ(現・ファビウス株式会社)
⇒事件当時、三崎氏が経営していた会社。健康食品や美容製品をEコマース
 で販売している。
 
・株式会社新潮社
⇒出版事業を手掛ける。「週刊新潮」は発行部数39万部で業界2位を誇る。 
 本件裁判の被告。
・佐藤隆信氏
⇒新潮社の代表取締役。本件裁判の被告。
・田口智氏
⇒「週刊新潮」の記者。三崎氏の反社疑惑を報じる記事を執筆。
 本件裁判の被告。
 
・アスクレピオス製薬株式会社
⇒健康食品、美容製品などの製造販売会社。一時期、三崎氏が株式の過半数
 を保持してオーナーとなっていた。
・越山晃次氏
⇒アスクレピオス製薬の創業経営者。事件当時、同社代表取締役を務めて
 いたが、三崎氏に株式の過半数を譲渡。その後、不正な金銭の流れを
 指摘され、代表取締役を解任されている。

・株式会社シエル
⇒健康食品や美容製品をEコマースで販売する、メディアハーツ社の
 競合企業。何者かから右翼団体の街宣車を送り込まれたり、大量の
 スパムメールを送り付けられる被害に遭っていた。

【事件の経緯】

三崎氏が反社との繋がりを疑われるきっかけになったのは、氏がオーナーとなっていた会社で乗っ取り騒動が起きたこと。その会社の経営権を争う裁判において、「三崎氏と反社勢力との繋がりを示唆する文書」が出てきたのだ。これにマスコミが飛びついて、今回争われている記事報道に繋がったものである。一連の事件を時系列で振り返ってみよう。

2014年
越山氏がアスクレピオス製薬を創業(越山氏の持株比率100%)。
 
2016年
アスクレピオス社が業績不振となり、越山氏は三崎氏に同社株式を600株、3000万円で譲渡。
三崎氏は同社の60%の株を保持する株主となり、オーナー的立場からEコマース事業運営のノウハウを提供した(越山氏の持株比率40%)。
 
2018年
三崎氏からアスクレピオス社に対するEコマース事業ノウハウ供与、低利での資金融通などにより、同社売上高は三崎氏関与以前の10倍、営業利益は20倍まで伸長。
 
2019年
2月、三崎氏が法人税法違反(脱税)容疑で逮捕。3月に同法違反で起訴される。そして9月、三崎氏に対し、法人税法違反等の罪で懲役2年、執行猶予4年の有罪判決が出る。
 
三崎氏が有罪判決を受けたことを契機に、越山氏は「三崎氏が筆頭株主のままでは、金融機関からの融資が受けられない」との理由で、架空の株式譲渡を要請。三崎氏が保有する600株について、名義上の株主を越山氏とする内容で、三崎氏は「銀行取引のためなら」と渋々了承した。
 
しかしその後、アスクレピオス社内部において越山氏主導による数々の不正な金銭の流れが発覚(後述)。この動きに気づいた三崎氏は、越山氏の取締役解任を求めたが、越山氏は「三崎氏は当社株主ではない」と主張し、三崎氏の求めを拒否した。
 
やむを得ず三崎氏は株主としての地位確認の仮処分命令を裁判所に申し立てた。すると越山氏は「三崎氏は反社勢力と繋がりがあり、競合他社に街宣車を送り込むようなことをしていたから、そもそもの株式譲渡自体が無効だった」と主張してきた。
 
2020年
三崎氏はさらに、越山氏をアスクレピオス社代表取締役から解任することを求める申し立てをおこなった。
 
結果的に、これらの裁判において三崎氏は勝訴。同時に、「反社勢力との繋がり」や「街宣車を送り込む」行為についても裁判所において「事実を認めるには足りない」=「三崎氏に反社勢力との繋がりはない」と判断されている。

<参照:越山氏主導による不正な金銭の流れ>

・メディアハーツ社から送り込まれていた、金庫番的役割であった
 経理責任者を担当から外す
・規約を無視して、勝手に子会社を設立
・株主総会決議を経ずに、自身の役員報酬を3倍以上に増額したり、
 会社から計1億2千万円もの借入をおこない、個人的に第三者に
 貸し付けたりして利息を得る
・その他、事業とは無関係な赤字法人や知人の企業などに、総額約4億円
 にものぼる貸付や送金をおこなう
・三崎氏が経営権を取り戻した後、会社の銀行口座を確認したところ、
 ほぼ全ての口座は解約されており、残高として存在していたはずの
 約10億円の現金は子会社への貸付に用いられ、かつその会社は300円で
 売却されていた
 
⇒本件については別途訴訟提起されており、2022年3月17日に三崎氏が勝訴。越山氏らに対して10億6千万円余の賠償が命じられている。

【新潮社の記事】

週刊新潮の田口記者は2020年夏頃、アスクレピオス社を巡って三崎氏と越山氏との間で経営権争いが起きており、その裁判の中で「三崎氏に反社との繋がりがあったか否か」が争点になっている旨の情報を入手した。
 
田口氏は三崎氏、越山氏双方に対して取材をおこない、記事を執筆。2020年8月27日発売の「週刊新潮(9月3日号)」に掲載された後、9月7日には同内容の記事がネットサイト「デイリー新潮」で配信された。具体的な記事構成は次のとおりであった。
 
「『街宣車を押しかけさせたんだよね』青汁王子、”贖罪キャラ“の裏で
 新たな裁判」
(デイリー新潮)、「青汁王子のすっきりしない金銭
 トラブル第二幕」
(週刊新潮)との記事タイトル
・小見出しに「反社とのかかわり」「スパムメールで業務を妨害」
 「和解書を偽造」
と記載
・三崎氏と越山氏との間で、アスクレピオス社の株主権を巡って訴訟と
 なっている旨の説明
・裁判における越山氏の発言として「三崎氏が反社会的勢力との関わりが
 ある人物だと事前に分かっていたら、株式譲渡契約など結ばなかった。
 錯誤無効だ」
との主張を紹介
・越山氏の発言を引用する形で「三崎氏は、シエルが青汁の模倣商品を
 出したことに対して”ぶっ潰したい””どう嫌がらせしようか“と怒りを
 募らせていた」
と記載
「街宣車による攻撃は、2016年7月に実施された都知事選の直前3日間に
 わたって行われた」「三崎氏が、山口組系暴力団の企業舎弟に街宣車
 派遣等を依頼した」「国税局から脱税を指摘された裏金は嫌がらせ工作
 のための経費だと主張したが、国税局は反社への費用を経費として認定
 しなかった」「シエル発と見せかけたスパムメールを取引先などに大量
 送信したり、シエル社の問い合わせフォームに1日数万件以上のメールを
 送り付けたりして業務妨害した」
などと断定的に記載
「贖罪キャラの裏ではトラブルだらけだったわけだ」と記載
・三崎氏側への取材回答として、上記反社会的行為が裁判所で否定された
 旨の弁護士コメントも付記しているが、その分量は少ない
 
本来、記事としては双方の言い分をバランスよく紹介しなければならないところ、問題の記事は全体的に越山氏の言い分が確かであるとの前提に基づいた構成であった。しかも三崎氏側の主張を充分検証することもないまま、「三崎氏は反社勢力の力を借りて、競合企業に嫌がらせをおこなった」ことがあたかも裏付けのとれた事実であるかのように記述されていた。これは報道として本来あるべき客観性からかけ離れ、三崎氏の社会的評価を低下させるものだといえよう。

【名誉毀損裁判提訴】

「週刊新潮」および「デイリー新潮」の記事掲載を受けて、三崎氏は「自身に反社勢力との関わりがあり、シエル社への業務妨害行為もおこなっているかのような印象を与えるものであり、名誉が毀損された」として、新潮社と同社代表取締役佐藤氏、および田口記者に対して計1540万円の損害賠償を請求するとともに、謝罪広告の掲載を求めて提訴した。
 
とくに本件について田口記者が取材をおこなっていた当時は、三崎氏と越山氏との間でアスクレピオス社の経営支配権を巡って争いになっている最中であった。そんなときに、「三崎氏は反社と関わりがある」旨の報道がなされれば、越山氏にとって有利となることは明らかであり、越山氏が偽証をおこなう充分な動機となる。したがって、記者にとっては慎重な取材姿勢が求められる場面であったはずだ。しかし三崎氏側の主張はほぼ反映されることなく、越山氏側の主張に全面的に依拠した記事内容になってしまったことは多いに問題である、との主張がなされている。
 
ここで問題になるのが、繰り返し言及されている「三崎氏が反社勢力に依頼して、シエル社に対して街宣車を差し向けた」「三崎氏がシエル社に対してスパムメールを送り付けて業務妨害した」ことが事実か否かである。
 
新潮記事では越山氏の証言に基づき、「三崎氏が関与した」という前提に立っている。そう言い切れる根拠は、「三崎氏自身が街宣車を差し向けさせ、スパムメール送信をおこなって業務妨害したことを認め、シエル社と和解契約を結んだ書面」が存在しているためだ。
 
「三崎氏は一貫して自身の関与を否定してきたのに、三崎氏自身が関与を認めた書面がある!? 一体どういうことだ!?」
 
ここまでお読み頂いた読者の皆さまが困惑してしまうのも無理はないが、確かに当該書面は存在している。しかも、さらにややこしいことに、この書面は「三崎氏自身によって捏造されたもの」なのだ。

【「偽造された和解書」の真実】

話は2019年初頭にさかのぼる。当時、三崎氏は架空外注費の計上に関して法人税法違反の容疑がかけられ、国税庁の査察を受けていた。当局が指摘していた外注費は、実際には実態のないものであったが、三崎氏が担当官から「否認を続けるならお前を完全に潰す」などと脅されたことから、外注費に実態があったように見せかける工作をせざるを得なくなったのだ。そこで、当時関係性が良好であったシエル社の協力を得て、実際にはおこなっていないシエル社への妨害工作を「外注費で実行した」と主張するシナリオを創り、かつその物証として(捏造した)和解契約書を用意した、という顛末なのである。(実際、当時のシエル社の代表取締役は、被害に遭った当時警察に相談していたが、「誰がこのような妨害工作をしたのか分からない」旨の供述をおこなっている)
 
国税庁の査察に対抗するために、後付けで「実態のない妨害工作をおこなった旨を説明する」ことについては、三崎氏が当時(2019年3月28日付)のSNS投稿において実際に公言している。また逮捕後の取り調べにおいても、外注費が架空であり、シエル社に対する妨害工作は実際にはおこなっていないことを認めたことで起訴され、有罪判決を受けている。
 
大変ややこしいのだが、この有罪判決は、外注費が架空(=シエル社への妨害工作をおこなっていない)であったからこそ下された判決であり、仮に三崎氏が本当に妨害工作をおこなっていたとすれば、有罪にはなっていなかった、という構図なのである。
 
ちなみに本件裁判の鍵となったこの和解文書、一般的に和解手続は非公開の場でおこなわれるため、当事者である三崎氏、およびシエル社経営陣以外は持っているはずがないものだ。では、その内容がなぜ裁判の中で明らかになったかというと、越山氏がシエル社の関係者を買収し、当該人物から高額で買い取ったためである。越山氏は当時アスクレピオス社の経営権を巡って三崎氏と争っており、三崎氏に対抗するため、彼にとって不利な証拠となる当該文書を確保しておきたかったのだ(ちなみに件の関係者は、越山氏の買収に応じて和解文書を持ち出したことでのちに処分を受けている)。

【裁判結果と本判決の意義】

裁判においては、記事が越山氏の証言を基に「三崎氏が反社勢力に依頼して競合他社に街宣車を送り込ませた」「サイバー攻撃によって業務妨害をおこなった」と断定的に記載されていたことや、三崎氏側からの反論の採り上げ方が不充分で、あたかも越山氏側の主張が事実かのように扱われていた点が問題視された。
 
結果的に「記事に書かれた行為は道義的にも法律的にも厳しく非難されるべきものだが、それが三崎氏によっておこなわれたとは認められず、当該記事は三崎氏の社会的評価を低下させ、社会活動に多大な悪影響を及ぼすもの」と判断され、新潮社および執筆記者に220万円の損害賠償支払いを求めた。(なお、新潮社代表取締役佐藤氏への請求と、謝罪広告の掲載は認められなかった)
 
名誉毀損は、不特定多数の人が情報を見られる状態において、客観的に見たときに社会的な評価を貶められるような情報発信がなされた場合に成立する。逆に、その発信された情報が事実であり、かつその情報に公益性があり、公共的に明らかにされるべきものであれば、いくら本人が誹謗中傷だと感じても名誉毀損には問えない、という決まりになっている。よって一般的なマスコミ報道においては、たとえ対象者にとって名誉毀損的な内容となる報道記事を出したとしても、「公益性があるから」「真実と信じるだけの相当の理由があったから」が免罪符となり、結果的に誤報と判明しても過失が免責されるような風潮があることも事実だ。
 
今般のケースでは、三崎氏が著名な事業家であり、問題とされた行為が反社との繋がりやサイバー攻撃など、犯罪にも該当し得るものであったため、「記事としての公益性はある」と判断された。しかし、肝心の「事実か否か」については事実と認められなかったため、新潮社と執筆記者は損害賠償責任を負うとの判断になった。記事掲載メディアのみならず、執筆した記者個人に対しても損害賠償の支払い命令が出たことについては象徴的であり、今後のマスコミにおける報道姿勢を糺すものとなるだろう。
 


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