文舵練習問題① 問1

 暮れかける晩夏の庭は切ない色だ。 
 ほんの七日ほど前までは、たとえ暦の上では秋がどうのと言われても、こともなげに紅を晒して夏を背負っていた百日紅。今や何処にも色を残すことを許されず、消え残った陽炎に煽られて揺らめくばかりだ。不意にエナガの群れがやって来ては梢を揺らす。小さな小さなその鳥は、ガラス一枚隔てただけで、ひとが在るのがわからない。ひともまた、その群れがいったい何羽なのだかわからない。今いたそれは、こちらの眼よりも早くに動く。そこにいた、その影は、いつもう一羽と重なってしまったか。二羽いたはずのその重なりは、ぱぱっと散って手品のように目を晦ます。見れば、細い細い枝のその先で、ぶうらりぶらりと逆さになって、ただただのんびり揺れている。遊びをせんとや生まれけむ。ひとの掌にすっぽり収まってしまうであろうその身の丈は、それでも尾ばかり優雅に長くはみ出してしまうのだろう。小さな鳥よ、しかしその身を捉えることはまずできまい。こちとら何羽の群れか数えることもできない為体。モノトーンのはずのその体には、しかし暖かな色が含まれる。
 と、そう思ったその時に、ついに夏の敗北を私は知った。

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