文舵練習問題①ー2

 河原の白い石は熱くて、サンダルの底からでも火傷しそうに感じるのに、谷間の空気は取り澄ました清涼そのもので、微塵も熱を感じない。でもこれだけ石が熱いのだからと安心して水に入ると、飛び上がりそうに冷たくて、大袈裟なほど身震いした。身震いなんてものは、心の話をする時に使う言葉だとばかり思っていたが、何のことはない、動物が水を払うのと変わらない速さで、本当にぶるぶるっと竦み上がるのだ。慌てて石の上に上がってみれば、その熱にほっとするのも束の間、それはそれですぐにじりじりと熱くなる。逃げ場がない。仕方なくせっせと石に水をかけているのを見て従兄弟が笑う。はよ来いや、という彼はとうに川を渡って、向こうの岩肌の僅かな足場に留まっている。いつの間にと思うと、急に心細くなる。他にも一緒に来た子供らは、みな土地の子だから次々と岩の方に渡っていく。なんでそっちに行くのか。流れは速く、うっかりすると足を取られる。手前の湾曲した澱みのあたりで水遊びするくらいがやっとだと思っていたが、怖いんか、と言われるとなんだかそれも癪に障る。泳げないわけじゃない。しかし、動いてみれば、泳ぐというよりはただただ歩くだけで、手だけが流れに逆らって水を掻いているばかりだった。それでもなんとか岩の方に歩み寄ろうとしていたら、不意に「そこ!」と従兄弟が言う。と、突然足元が消えた。ずるりと体が下がり、水が喉を塞ぐ。ばたばたもがきながら必死で後退る。何かに足を掴まれ引き込まれたのかと思う。見れば急に色が濃い。深い緑は透き通っているのに底が見えない。竦んでいると、はよ来いや、とまた声がかかる。僅か三メートルかそこらしかないその幅が途方もない。ここは冥途へ渡る淵ではないのか。しかし、それに気づいたらだめなのだ。目を閉じるのは怖かったが、開けているのはなお恐ろしい。目を開けたら、きっと帰れない、そんなやつだ。死ぬ。きっと死ぬ。死ぬ気で渡った三メートル。流されそうになりかけた腕を従兄弟は掴んでくれたが、一瞬後には振り払われ、彼は猿のように岩を登ると高みから淵を目掛けて飛び込んだ。次々と飛び込んでいく子供らが競っているのは高さなのだ。流された浮き輪を追いかけて捕まえ、遡って泳ぐ川の子らはやはり河童に違いなかった。


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