文舵練習問題③ー1

 風は相変わらずごうごうと喧しい。扉も壁も分厚く、その音は遠い。冬はなぜ長いのかと私は思う。緯度が高いから、と母は言う。そうだけど、どこにだって冬はある。手を止めると、また風が唸った。息をつき、私は作り目を続ける。母の手はするすると網目を繋ぐ。その足の指が器用に床の雑誌を捲る。足元に遣る、その眼はよく見える。視線は雑誌の文字だけを追っている。でも、その手は決して間違わない。ここじゃ、それは当たり前のことだ。でも、私の指はまだ間違うのだ。風が唸って、どこか体が軋んだ。昔は、ただ風だけが不規則だった。年月は各々の編み手の幅を刻んだ。娘らは手元を見ずに平気で編んだ。その網目は正確であって迷いがない。今は、気を散らすものがあり過ぎる。母はわざわざ私に小言は言わない。でも、この編み目は見抜かれてる。これは乱暴で、忙しない現代模様。
 この島は北緯55.5度、西経5度。冬は厳しく、長く、風は止まない。


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