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警察官の辞め時

 警察官になるのに特別な資格は全く必要ない。やる気、健康な体、体育会系で培われたパワハラ耐性、大学の飲み会で培われたセクハラ耐性(女性)くらいがあればやっていける。洗脳のされやすさも重要なファクターだ。理不尽なことが多すぎるこの組織では自分を殺すことが常に求められ、気付いたときには自分を殺した自分が自分になってしまっている。 

 しかしこの腐りきった組織にも「絶対にこんな組織に染まらないぞ」という気概をもった者も一定数存在する。染まりきった上司からは疎まれるめんどくさい部下だ。まあ大体そういった人から辞職していくし、わたしもその1人であって嫌気がさして辞めたクチであった。そんな組織ではあるが、まあ辞職する理由は人それぞれではある。 

 

「すみません、ここの人に襲われたことあるんですけど。」

勤務中だったわたしは突然の来訪者に呆気にとられた。また精神異常者が来たのかヤレヤレと、とりあえず落ち着いた様子の仮想被害者に話を聞いた。彼女は飲み屋で知り合ってからたまに遊んでいた警○官に、車の中で無理矢理キスをされたというのだった。その話を聞いたときにわたしは「よくある嫌よ嫌よも」のやつだし個人間で解決してくれよ心底思った。 

が、それに加えてそれは半年以上も前のことだったことから、ピンときた。 

「あー、金ね金・・・」 

おそらく最近付き合いだした悪い男に過去の男のことを聞かれた時にその車の中での出来事をポロリと言ったのだろう。慰謝料、示談金。いけると踏んで2人で画策したはずだと。

率直に言えば、半年も前に遊んでてちょっとチューしたくらいの案件で示談金なんてとられてたら美人局放題される。やった本人に聞いたら舌は入れたに決まってんだろって言ってたけども。 

やった本人はわたしの同期だった。組織には染まらず遊びまくって性病も厭わない剛の者で、よくいる男女とも友達の多いタイプ。次の日、彼は課長の「これは大丈夫だしよくある男女間のいざこざだ。おれが守ってやるから安心しろ。」という言葉に安堵していた。こういったいちゃもん等には毅然とした態度で向かわなければならない。強い組織でなければならないのだ。

 

翌週、彼は辞職した。

 

「課長に『無理だった』って言われたときのおれの気持ちよ・・・」

みたいなことを言っていたが、爆笑していたわたしにあまり記憶にない。 

わたしは結局の結末を知らない。けれども、組織は彼を追い出したし、課長は彼を守れなかった。背中に汚い蝶を飼っている女と半グレにしてやられたのだ。 

あれは守ってあげるべきだったんじゃないか。そう思っている。

まあ追い出された彼はその後、紆余曲折を経て東北の田舎都市で複数店舗を経営する敏腕経営者になっているしそっちのほうが似合っている。儲かっているようだけどもビットコインで死ぬほど損したらしい。まあそのうち奢られに行きたいものである。

 

 

 

※この物語はふぃくしょんであり、こんなことがありそうだなという妄想です。

 

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